Brown-Morse-Sardの定理について
1 準備
定義 1 (測度零).
の部分集合が測度零であるとは、任意のに対して次元区間の列が存在して、と
を充たすときに言う。これはのルベーグ測度がであることと同値である。
定義 2 (臨界点とか).
はの開集合とする。そして 写像は級とする。 このとき各点に対してのヤコビ行列が型行列として定義される。 関数の臨界点とはの階数がより真に小さくなる点のことを言う。をの臨界点全体の集合とする。また、に属する点を臨界値と言う。
で中心をとする半径のにおける開球を表すことにし、のときは単にと書くことにする。
2 Morseの補題
補題 3.
はの開集合とする。 そして 実数値関数は級とし、 級写像 は を充たすもので、 は単調増加関数とする。 さて固定されたが任意のについて 充たすとき常に
を充たすならば、 には依存しないが存在して任意のに対して
が成り立つ。
証明.
とするとかつが成り立つ。さてが存在して
を充たす。また
であるので
となる。 さて仮定から
が成り立ち、なので
となる。 よってと置けば
となることがわかる。 ∎
定義 4 (級球形分解).
はの部分集合、はの開集合とし、を充すとする。 とに対して集合との部分集合族と 写像の族の三つ組がの級球形分解であるとは以下を充たすこととする。
-
(1)
は可算集合
-
(2)
は可算族で、任意のはを充たす。
-
(3)
の定義域は次元ユークリッド空間のを中心とした半径の開球である。
-
(4)
-
(5)
はからの中への級の同相写像でを充たす。
-
(6)
-
(7)
上で定義され、 上でとなる級の任意の実数値関数に対して、 実数と、 を定義域とする単調増加関数が存在して を充たし、 かつ、 すべてのとを充たすに対して、 ならば
が成り立つ。
また、組に級球形分解が存在するときに、は級球形分解可能であるという。
注意.
は連続でなくともよい。
いまから任意のと任意の及び を充たす任意のと 任意のの開集合 について、 任意のは級モース球形分解可能であることを示す。
補題 5.
をの部分集合族とし、をの開集合族とする。 このとき各が級球形分解可能ならば、 もそうである。
証明.
の級球形分解をとする。このとき
がの級球形分解になっている。このことは簡単に確かめられる。 ∎
補題 6.
はユークリッド空間の開集合上で定義された級写像で
を充たすとする。このとき、について が級球形分解を持つならば、 はの級球形分解になっている。ここで、
である。
証明.
一番最後の条件以外は容易に確かめられる。 その最後の条件を調べよう。 いまは上の級関数で上でになっているとする。 このとき、は上でになっている。 よって となる単調関数が存在してすべてのとを充たすに対して
が成り立つ。これを書き直すと、すべてのとを充たすに対して
が成り立つことがわかるので、とすれば、は最後の条件を充たし、これがの級球形分解であることがわかる。 ∎
補題 7.
任意のについて任意のの級モース球形分解が存在する。
証明.
ユークリッド空間の局所コンパクト性から直ちに補題は従う。 ∎
補題 8.
任意のについて任意のの級モース球形分解が存在する。
証明.
集合をの孤立点全体とするとはその相対位相において可分距離空間であり、また、離散空間でもあるので、は可算集合である。そしてを、相対コンパクトな開区間の可算族で、を被覆し、その閉包がの部分集合になっているものとする。はリンデレフで、は開集合なのでこのような集合族は存在する。次に各についてを平行移動
として定義する。このような平行移動はについて一意的に決まることと、平行移動なので、
となることに注意せよ。はの直径である。 このように定義されたは分解の条件を充たすことがわかる。一番最後の条件を示そう。 を上でとなる関数とする。このとき の点はすべての集積点なので、 任意のについて
となることが帰納的に分かる。 さてとにテイラーの定理を使うと
となるがとの間に存在することがわかる。そしてに対して、を
と定義し、を
| (1) |
と定義する。に注意して、 がコンパクト集合上で一様連続であることを用いると
がわかる。 そして(1)からについて
となることがわかる。このことと、から、がの級球形分解であることがわかる。 ∎
補題 9.
任意にを与え、で、はの開集合で、する。 このときについて任意の組の級モース球形分解が存在する。
証明.
いまからに関する帰納法で証明を行う。 の時は上の補題である。また、、として証明しても一般性を失わない。 いまとなる組に対しては任意の部分集合ととなる組の級モース球形分解が存在するしよう。
を任意に与える。そして
と定義しておく。 帰納法の仮定からに級モース球形分解が存在する。 これが級球形分解にもなっていることを示そう。 このの条件をを各に適応すると、各ごとにとなる単調関数が存在して各に対してすべてのとを充たすに対して
となる。ここで
とすれば すべてのとを充たす および任意のに対して
が成り立つ。 そして補題3からについてならば
が成り立つ。つまり、はの級モース球形分解になっている。
次にについて考察しよう。 任意のについてある関数ででであるようなものが存在する。 適当に番号を入れ替えてとしてよい。 このとき陰関数定理からの近傍と 級写像が存在しての点で
を充たすものはと書ける。 さらに
と仮定しても良い。 ここで
を考えると、これは級で各について
であり、
を充たす。 さて、もちろんなので
であり、はリンデレフなので可算個の点が存在して
となる。表記を簡潔にするために、、、と書くことにする。 このとき各について
が成り立つことに注意しよう。
以上のことからとに級球形分解が存在し、なので補題5から にも級球形分解が存在する。 ∎
補題 10 (Morseの補題).
としはの部分集合では開集合とし、とする。このときが存在して次を充たす。
-
(1)
-
(2)
は高々可算集合。
-
(3)
となる任意のに対して非増加関数の列が存在して及び 任意のについて
が成り立つ。
この補題で述べられるをの級モース分解と呼ぶことにする。
証明.
を先の補題から得られるの級球形分割であるとする。 として、を適当に番号付して、とし、またこの番号付に応じて、、と書くことにする。 条件の、はすぐにわかる。を確かめよう。
各に対してなので、球形分解の定義のから、各に対してが存在し、 を充し、かつ、全てのとを充すに対してならば
を充たす。 さて、と定め、
と定めれば、は を充し、かつ、全てのとを充すに対してならば 任意のについて
を充たす。
次の定理がいわゆるSadの定理である。
3 Brown-Morse-Sardの定理
定理 11 (Brown-Morse-Sard).
, は級とする。もし
ならばは測度零である。
証明は場合分けで行う。
命題 12.
の場合に定理11は成り立つ。 つまり、であり、 がの開集合で が級関数 ならばは測度零である。
証明.
とし、を
と定義すると、が級関数であるからもそうである。 このことからは局所リプシッツ関数であることがわかる。よっては零集合を零集合に写す。はの零集合であり、であるから定理は示された。 ∎
命題 13.
の場合に定理11は成り立つ。つまり、 であり、 がの開集合で が級ならば は測度零である。
証明.
の中の有界閉立方体に対してが零集合であることを示せばよい。 まず、は上リプシッツであることに注意しよう。 各に対して を
と定義する。すると
は上一様連続なのでのときとなるが存在して
となる。 と仮定すると、この点では写像のランクが落ちてるのでによっては次元部分空間に写像される。 そしてとするとでからまでの距離はより小さい。 体積は高々となる。
さてを幅がとなる個の立方体に分割する。 臨界点を含む立方体はを中心とする半径の球体の中に含まれる。 この球体の像の体積は高々である。 立方体の個数は高々個なのでの体積は高々
とするとの体積がであることがわかる。 ∎
の場合を証明するために補題をいくつか用意する。
補題 14.
は開集合とし、とする。 を級としをのランクがになる点全体とする。このときならばの測度はゼロである。
証明.
をの級モース分解とする。 各が零集合であることを示せば良い。 と成分表示する。 このとき、は階数がの点全体であることから、について は各の臨界点になっている。モース分解の性質からあるが存在して とするとならば任意のに対して
となる。 このことから、でならば
となる。 をに含まれる閉立方体として、が零集合であることを示せば良い。 の一辺の長さをとし、を一辺がの閉立法体に分割すると、が半径の球に含まれるので、 は半径が
の球に含まれる。の個数は個なので、 の測度は、球体の体積に関連した定数を用いて、上から
と評価できる。この評価は任意ので成り立つので、とするとの測度が零になることがわかる。 ∎
補題 15.
をの階数がの点全体とする。このときもしならばは測度零である。
証明.
の時は先の補題である。とするとの近傍とその局所座標系、周りの局所座標系が存在して、
となるものが存在する。を固定して写像
を考えると階数は零である。 を最初の座標がであるようなの中の部分空間とするときの場合、つまり先の補題からはの中で測度零である。よっては任意のとの交わりが零集合なのでフビニの定理からも測度零である。 ∎
命題 16.
とする。 , は級とする。もし
ならばは測度零である。
証明.
まず、各について
と定義する。 もちろん
が成り立つ。 そしてのとき任意のに対してなので 先の補題からが零集合であることがわかり、結局は零集合であることがわかる。 ∎
4 Sardの補題にまつわる反例
Sardの定理に置いて、の微分可能性がより小さい場合何が怒るのか調べることは有意義である。今から以下の命題の異なる三つの証明を紹介して行く。
命題 17.
級関数で、が正測度を持つものが存在する。
4.1 Whitneyによる構成
次の形のWhitneyの拡張定理を用いる。
命題 18.
をの閉集合とし、とする。このとき任意の-Hoelder写像についてその拡張が存在してを充たすが存在してについて
となる。
命題 19.
級写像が存在してが正測度を持つものが存在する。
証明.
写像を
と定義する。を充すことに注意しよう。 と定め、 一般に、が定義されたとき、 と定義する。 そして
と定義し、
とする。はカントール集合と同相である。 各に対して、かつ でならば、 任意のに対してであるから、に対して 無限列で
となるものがただ一つ定まる。これを用いて、 写像を
と定義する。 さて、について、番目で初めてとなったとすると、
となる。 そして
となるので、として
が成り立つ。 また、任意の無限列に対して となるが存在するので、 である。なので、 このに先の命題を適用し、 任意のとに対して
で となる を得ると、なので、
となり、は級では正測度を持つ。 ∎
注意.
実際のWhitneyの構成はカントール集合集合上ではなく内の弧に対して拡張定理を用いている。つまりWhitneyは弧上でその勾配がだが定数でない関数を構成した。この構成はカントールの悪魔の階段の二次元版とも思える。
注意.
任意のについて級関数で、が正測度であるものの存在も示せる。
4.2 Grinbergによる構成
次のよく知られた事実がある。証明は省略する。
命題 20.
Grinbergはこの命題20を用いてSardの定理にまつわる反例を構成した。 その第一段階は次に述べるような関数を構成することである。
命題 21.
級の関数でとなるものが存在する。
証明.
カントール集合は単位区間を三等分し、その真ん中の開区間を取り除き、そしてまた残った区間をそれぞれ三等分し、そのそれぞれの真ん中の開区間を取り除き・・・とこの操作を繰り返して得られる集合である。の一次元ルベーグ測度はであることに注意しよう。をを構成するときに取り除かれる開区間全体の集合とする。 は開集合の連結成分全体と一致する。 が零集合であることから任意のについて
が成り立つ。ここではの一次元ルベーグ測度を表す。 とすると
となる。 ここで、この級数を元に通常のものとは異なるカントール集合を構成する。 まず、単位区間の真ん中の点(つまり)を中心とする長さがの開区間(つまりを中心とする半径の開球と同じである)を取り除く。 そして、次に残った二つの区間のそれぞれ真ん中の点を中心とする長さの開区間を取り除く。 この操作を繰り返してゆく。一般にこの操作を回行うと、個の長さが同じ閉区間が残る。回めの操作はこの残った個の閉区間の真ん中の点を中心とする長さの開区間を取り除く操作になる。この操作を繰り返して得られる集合をとする。(正確には回目に残る集合をとしたとき、この全ての共通部分がである。) さて、回目の操作で取り除かれる開区間の長さの総和はなので、全体として、取り除かれる開区間の長さの総和は
となるから、は零集合である。をの連結成分全体、つまりを定義するときに取り除かれた集合全体とする。は可算集合であるが、適当に番号をつけてとする。
連続関数 で 任意のについて任意のに対して そして を充すものを一つ取る。そして、各については、「回目にが取り除かれる。」を充すような自然数とする。(つまりはの世代数とする。)そして
とを定義する。このは
および
を充す。 さてここで、と定義する。 の連続性を調べよう。 は互いに交わらないので、連続性はの点のみで調べれば良い。 はを充しているので、についてである。 そして、 なのでが連続であることがわかる。 関数を
と定義する。 は連続なのでは級関数になる。
をを構成するときに現れる第世代の閉区間全体とし、 をを定義するときに現れる第世代の閉区間全体とする。 また、、とする。 各については互いに交わらない個の閉区間の族である。 について、任意のと任意のについてとなっているときにと定義する。にも同様に順序を導入する。さて上でも上でもは全順序になっており、とは濃度が同じ有限集合なので一意的に順序を保つ全単射が存在する。 そしてをがならばとして定義する。
各に対して、列で、で
を充すものが存在する。このような列は複数あることに注意せよ。そして
となるが存在する。このは列の選び方に依らず一意的に存在するので、 写像をこのにを対応させる写像として定義する。
をを構成するときに取り除かれる第世代の開区間全体とし、 をを定義するときに取り除かれる第世代の開区間全体となる。 もちろんこのとき、とする。 上と同様にしてとには全順序が定義され、順序を保つ全単射が存在する。 そして写像をがならばとして定義する。 このとき
が成り立つ。
任意のをとりとする。このときであり、
であるので、を得る。 (ちなみにこの構成だとまでわかる。) ∎
先に述べた命題を用いればSardの定理にまつわる反例が次のように構成できる。
命題 22.
級関数でが正のルベーグ測度を持つものが存在する。
証明.
4.3 Kaufmanによる構成
次のWhitneyの補題を用いる。
命題 23.
をの開区間とする。 連続写像と閉集合、、は以下を充たすとする。 任意のに対してが存在して
-
(1)
かつならば
である。
-
(2)
かつならば導関数が存在し、
である。
このときは点において微分可能でである。
証明.
任意のと任意のに対してが存在して任意のならば
を示せばよい。 話を簡単にするためにとする。 のときに目的の式を示せばよい。 ここでをで、となるものとする。 が閉集合なのでこのようなは存在する。 また、である。 からは開区間で微分可能なので中間値の定理から
となるが存在する。 さてこのとき、
となり、また、
なので
である。さて及びの定義から、なのでかつである。また、の定義からかつなので 結局ならば
を得る。 ∎
上の補題から次がわかる。
補題 24.
は開集合とし、 孤立点を持たないコンパクト集合は内点を持たないとする。 連続関数について、はにおいて級で任意のに対して
とし、さらにとについて
が成り立っているとする。このときは上すべての点で級であり、である。
命題 25.
級全射関数で、各点でとなるものが存在する。
証明.
とする。 という立法体を考える。 という形で書ける立法体を考える。(の値の選び方でこの形に書ける立方体は8個ある。) この形で書ける立法体の間の距離は以上である。 また、の境界と先の形で書ける立方体との距離は以上である。
今からで定義される立方体を8の小さい立方体に分割していってカントール集合を作る。 を適当に番号付けて、 とする。 一般にが定義されたとき、を適当に番号付けて、
としてを帰納的に定義する。 世代が同じととの距離は 以上である。 世代が異なると()との関係は以下のようになる。 もしこの二つが交わってなければ、この二つの立方体の間の距離は以上になり、 もし大きい方の立方体が小さい方を含んでいれば、大きい方の境界と、小さい立方体との距離はとなる。
の境界を、の境界を で表すことにする。そして、
とする。はカントール集合と同相である。 以下を仮定する。 をの任意の閉正方形とする。と に対して閉長方形 を帰納的に以下のように定義する。 はをつの垂直な線分によって個の相似な長方形に分割し、それを番号付けたものとして定義する。 一般にが定義された時、 もし、が偶数ならばをつの垂直な線分で個の相似な長方形に分割し、それを番号付けたものとしてを定義し、 もしが奇数ならばをつの水平な線分で個の相似な長方形に分割し、それを番号付けたものとしてを定義する。ここで、あるが存在して任意のについて
となる。(が奇数であるときと偶数であるときに場合分けすれば証明出来る。) 全射写像は をに全射に写すとする。このような写像は存在する。 以上の考察から、が存在してについて
となることがわかる。ここでである。
をおよび、級で
を充すものとする。 での近傍上でとなる級写像とする。この時であり、を満たす。 そして
と定義する。 は上で級である。 境界上ではであり、また、上で
なので、先の補題からは上全体で級であり、上で である。 の定義の仕方からの階数は全ての点で以下である。 ∎
注意.
この命題における各点でという条件はが正測度であるという条件よりも強いことに注意しよう。
5 多様体の間の写像のBrown-Morse-Sardの定理
定義 26.
次元多様体の部分集合が測度零であるとは
定理 27 (多様体のBrown-Morse-Sardの定理).
をそれぞれ次元級可微分多様体とし、は級とする。また、はリンデレフであるとする。このときもし
ならばは測度零である。
証明.
ここまで読んだらわかる。 ∎
References
- [1] スタンバーグ著,高橋恒郎訳「微分幾何学」吉岡書店, 数学業書(24), 1985.
- [2] E. L. Grinberg, On the smooth hypothesis in Sard’s theorem, Amer. Math. Monthly, vol. 47(1985), 299-304.
- [3] R. Kaufman, A singular map of a cube onto a square, J. Differential Geom. vol 14, No. 4(1979), 593-594.
- [4] A. Sard, The measure of the critical values of differential maps, Bull. Amer. Math. Soc. Vol. 48 (1942), 883-890
- [5] H. Whitney, A function not constant on a connected set of critical points, Duke Math. J. Vol. 1, No. 4(1935), 514-517.