廉価版領域不変性定理の証明
この文章では領域不変性定理を 次元論などの 難しいことをなるべく使わないで証明してみる. 次元論を捨てたことにより球面への連続写像の拡張で 次元を特徴づける定理の範囲がユークリッド空間に狭まった. しかし,ユークリッド空間では次元論の代わりに ユークリッド空間特有の現象,つまり 解析学 を使うことができる(実際にはリプシッツ性があれば今回使う程度のサードの定理は証明できるので,本当に解析っぽい部分はサードの定理で測度ゼロの概念を用いるところのみである).
証明の方針は [4] と全く同じである. 違うのは 定理 6 の適応範囲をユークリッド空間の球面のみに絞って ユークリッド空間特有の性質で証明した部分のみである. 第二節の領域不変性定理の証明は [4] をそのまま流用している.
1 本文
記号 でを中心とする 半径の開球を表すとする.
定理 1.
とし を のコンパクト部分集合とし を 連続写像とする. このとき 任意の に対して 級 関数 が存在して が成り立つ.
証明.
のコンパクト性から は上一様連続である. そして の一様連続性から ある が存在して が を満たすならば となる. そして のコンパクト性から ある点列 が存在して がの開被覆となる. よって 滑らかな 単位の分割が 存在して はに従属し は に従属する. よって のとき となる. そして を
と定義する. するとは滑らかであり任意の について
∎
なので,定理が成り立つことがわかる.
注意.
他にも方法はある.まず 関数に対してティーチェの拡張定理を用いて を に拡張する.そしてこのを 例えば多項式近似定理や ストーン・ワイエルストラスの定理を使って上で近似すると証明できる. あるいは 軟化子でほぐしてあげると 定理が証明できる. 実は微分可能性はサードの定理を適応する時にしか使わず, さらに今回使うサードの定理のためには リプシッツ性があれば十分なので, 上の定理で滑らかな単位の分割の代わりに リプシッツな単位の分割をこさえてやればこの文書の話は回すことができる.
定理 2 (Sardの定理スペシフィック).
関数 は級とする. このとき は の中で測度ゼロである.
証明.
大まかにいえばが局所リプシッツであることから の像が測度ゼロになることが従う. つまり が局所的にリプシッツだとすると による半径のボールの像は半径のボールに含まれる.なのでこのような写像で測度ゼロ性は保たれるのである. ∎
補題 3.
でとする. そして と おく. なめらかなレトラクション を
と定義する. このとき に依存する定数 が存在して は 上でリプシッツ写像である.
証明.
は相対コンパクトで の微分のノルムが上から抑えられるからである. ∎
系 4.
とし を のコンパクト部分集合とし をの閉部分集合とする. このとき 任意の と 任意の連続写像 に対して (なめらかな)関数 が存在し 以下の条件を満たす.
-
(1)
.
-
(2)
像は を含まない.
証明.
定理 5 (球面の拡張手性と次元の関係性スペシフィック).
とし を のコンパクト部分集合とし をの閉部分集合とする. このとき任意の連続写像 は拡張となる連続写像 を持つ.
証明.
これはちゃんと証明する. まず 系4 を使って (なめらかな)関数 で あって
-
(1)
.
-
(2)
像は を含まない.
を満たすものをとる. 次に ティーチェの拡張定理を使って の拡張となる連続関数 を得る. そして
と定義するとはの開集合である. ここで上で となるという仮定から である. さてウリゾーンの補題から 連続写像 で 上でを常にとり 上で 恒等的にとなるものが存在する. ここで を
と定義するとこれは連続写像になる. 今から が任意の についてノンゼロであることを証明しよう.
まずについてはの値域は なので 任意のについて 以下の計算を得る.
つまり である. 特にである.
次にの時はがの値を取り続けることから 恒等的に である.特に である. 以上から任意の でとなることがわかった. そこで を
と定義すれば 上では確かにと一致する. これで証明が終わる. ∎
定理 6.
とし を の閉部分集合とする. このとき任意の連続写像 は拡張となる連続写像 が存在する.
証明.
2 領域不変性定理
以下の定理により ユークリッド空間内のコンパクト部分集合の境界点は の位相的言明のみで特徴付できることがわかる. これが領域不変性定理の肝である.
この説の内容は [4]と同じである. テレンス・タオ[10]のブログでは こうした境界点の位相的特徴付けも簡略化することにより 簡単な領域不変性定理の証明をえているが, この定理自体をなくしてしまうことは勿体無いと思ったので,この文書では簡略化などはしていない.
定理 7.
とし を のコンパクト部分集合とする. このとき となるための必要十分条件は の内の任意の近傍 について の内の開近傍 であってを満たしかつ 任意の連続写像 は連続な拡張 を持つようなものが存在することである.
証明.
まず最初にを仮定して定理の条件を導く. をの任意の近傍とする. そしてをを中心とする十分小さい半径を持つ開球で を満たすものとする. このとき が条件を満たすことを見よう. ここでとするとは と同相である. 今ここで任意の連続写像 を考える. ここでは の閉集合である. 特にの閉集合でもある. ここで なので である. ここで に注意して 定理 6 から連続写像 の拡張である連続写像 を得る. さてとの共通部分は で,この上ではとは同じ値を取るので写像が貼り合わさって連続写像 を得る. そしてが の境界なので の点であってに属さないものを取ることができる. 任意の点について からへ伸ばした直線と との交点をとする. このとき は連続写像である. そしてを
と定義すると これら二つの関数とは上で値が一致するのでちゃんと張り合って連続関数になる. このはちゃんとの拡張になっている.
逆にが 定理の条件を満たすとしよう. 背理法のためには の内点であるとする. ここでを中心とする十分小さい半径を持つ 開球でとなるものを考える. すると定理の仮定よりの開近傍で で任意の連続関数が上に拡張するものが存在する. ここで写像 を以下のように定義する. 点からへと直線を伸ばし との交点をとする. これは連続写像では と同相なので ちゃんと連続写像 を得る.このとき は上で恒等写像になることに注意しよう. すると定理の条件より 連続写像 が存在する. さてであった. このとき を考えると はから へのレトラクトになる. これはNo retract theorem に矛盾するので は境界点でなければならない. ∎
いよいよ領域不変性定理を証明する.
定理 8 (領域不変性定理).
とし は の開集合とする. そして を連続単射とする. このとき はの開集合である.
証明.
任意のについて がの内点であることを証明すれば良い. の十分小さい近傍でがコンパクトで であるものをとる. このときを考えると はコンパクト集合からハウスドルフ空間への 連続単射なので位相的埋め込みになる. 定理7より 点が境界点かどうかはの内在的な位相的条件で特徴づけられる.つまりはの内点であるから はの内点になる. よって特にはの内点である. ∎
系 9.
とを同じ次元の境界つき多様体とし を同相写像とする. このときはをに移す.
証明.
もしもがを に移すと,を考えることによって局所的には ユークリッド空間の内点がに写っていることになるが, は上半平面の境界点なので領域不変性定理に矛盾する. ∎
References
- [1] 電波通信 「不動点定理」 https://concious4410.hatenablog.com/entry/2017/08/27/182714
- [2] 電波通信, 「次元論ショートコース:0次元から始める位相次元」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2022/03/12/161532
- [3] 電波通信, 「不動点定理と同値な命題」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2026/04/05/181441
- [4] 電波通信,「次元論からの領域不変性定理の証明」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2026/04/15/220550
- [5] M. G. Charalambous, Dimension theory. A selection of theorems and counterexamples Springer/Atlantis Press (2019).
- [6] W. Hurewicz and H. Wallman,Dimension Theory,Princeton Univ. Press,1948
- [7] T. Kihara, The Brouwer invariance theorems in reverse mathematics, Forum of Mathematics, Sigma, vol.8, 2020, doi: 10.1017/fms.2020.52.
- [8] C. Kuratowski, Une Méthode de Prolongement des Ensembles Relativement Fermés ou Ouverts, Colloq. Math. 1 (1948), 273-278, doi:10.4064/cm-1-4-273-278.
- [9] W. Kulpa, The Poiancré–Miranda Theorem, Amer. Math. Monthly 104, No. 6, 545–550 (1997) doi: 10.2307/2975081
- [10] T. Tao, Brouwer’s fixed point and invariance of domain theorems, and Hilbert’s fifth problem, https://terrytao.wordpress.com/2011/06/13/brouwers-fixed-point-and-invariance-of-domain-theorems-and-hilberts-fifth-problem/
- [11] A. R. Pears, Dimension theory of general spaces, Cambridge University Press 1975.