善良超フィルターの存在証明
善良超フィルターの存在証明といえば 数学書「超積と超準解析」 [1]に記述がある. しかしこの本 が2026年現在 入手困難で, 善良超フィルターの存在が記述された日本語の文書も見かけないことからこの文書を書くことにした. とりあえず善良超フィルターの存在がわかれば 飽和モデルの構成の難しい部分が解消できて, 超準解析の部分は色々な本に記述があるので絶版本を 無理して購入する必要がなくなるのではないかと思われなくもない. ところでこの本は国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能であるらしい.
1 準備: ケーニヒの補題
基数に関する Königの補題が必要になったので,急いで証明する.
定理 1.
基数によって添字づけられた 基数の二つの族 と は任意のについて
を満たすとする. このとき以下の不等式が成り立つ.
証明.
二つの集合族 と は について , , を満たし, そしての時 と を満たすとする.このような族は常に取ることが出来る. このとき であり である. まず最初に から への単射を構成しよう. 適当に各に対して 単射 をとってくる. なので, は絶対に全射ではない. よっての像に含まれない元を一つとり とする. このとき写像 を のとき の第成分が でそれ以外の成分は となるように定義する. このが単射となることを見よう. の単射性から各上では 単射である.でかつのときには の第成分は であり, のそれはである. はの像には含まれないから であるから である. 以上でが単射であることがわかった. つまり がわかった. 次にこれが真の不等式になることを示す. そのために任意の 写像 が全射ではないことを示せば良い. 写像を成分表示して とする. このとき なので写像 は全射ではないので これの像に含まれない元を取ることが出来る. そして点 を第成分がとなる点とする. 今からがの像に含まれないことを証明しよう. そのためには任意のについて がに属していないことを示せば良い. なんとなればのへの射影は の像であるから はこれに含まれない. よっては に含まれない. これでが絶対に全射ではないことがわかった. つまり目的の不等式が成り立つ. ∎
系 2.
基数について が成り立つ.
証明.
列 をかつ を満たすものとしてとってくる. 定数列 と上記の列に対して定理1 を適応すると を得る. ∎
系 3.
基数について が成り立つ.
証明.
2 本文
フィルターの定義は省略する. 特に断りのない限り, フィルターといえば真のフィルターとする.
を集合とするとき での有限部分集合全体の集合を表すとする. そして での冪集合を表すとする.
定義 4 (単調写像, 準同型).
を集合とする. 写像 が単調であるとは についてもしも ならば となるときにいう. そして が準同型であるとは 任意の について を満たすときにいう. 準同型ならば単調であることに注意しよう. そして二つの写像 についてとは 任意のについて と定義する.
定義 5 (善良超フィルター(good ultrafilter)).
を集合とし をその上のフィルターとする. このときが 善良超フィルター(good ultrafilter) であるとは 任意の単調写像 について 準同型写像 が存在してとなることである.
集合, について でから への写像全体の集合を表すとする.
定義 6 (large oscillation family).
を集合とし をその上の(も含めた)フィルターとする. このとき の部分集合 がlarge oscillation family mod であるとは 有限個の任意のの元と同じ個数の任意の有限個のの元 について
が成り立つことである.
注意.
補題 7.
を集合とし をその上のフィルターとする. このとき の部分集合 が large oscillation family mod であることと 有限個の任意のの元と同じ個数の任意の有限個のの元 , そして任意のについて
が成り立つことは同値である.
証明.
まず がlarge oscillation family mod と仮定し, 有限個の任意のの元と同じ個数の任意の有限個のの元 , そして任意のをとってくる. ここで とおく. すると
である. もしも だとすると なので がフィルターであることから が成り立ち矛盾する. よって であり,補題の条件が成り立つ.
逆に補題の条件が成り立つとしよう. そして 有限個の任意のの元と同じ個数の任意の有限個のの元 をとってくる. ここで とおく. ここでもしも だとすると 補題の条件から でなければならないが これはありえない. よって である. つまりは large oscillation family mod である. ∎
さて以下の命題を考えるにあたって は上のフィルターであることに注意しよう.
命題 8.
を基数とし を濃度の集合とする. このとき large oscillation family mod となるような であって となるものが存在する.
証明.
集合 の濃度はである. そこでこれをで添字づけして とする. そして 各 について を と定義する. このとき が条件を満たすことを見よう. 相異なる との元 を任意にとってくる. このとき は相異なるから 有限集合 が存在して が相異なる. そして関数 をと定義する. これはが相異なることから可能である. ここで とする. そして となるをとってくると なので は空ではない. よって であるから なので 族は large oscillation family mod である. また は で添字づけられており,この添字づけが単射であることが 上の議論からわかるから である. ∎
命題 9.
を集合とし をその上のフィルター, そして をlarge oscillation family mod とし とする. このとき 上のフィルター と が存在して以下を満たす.
-
(1)
-
(2)
はlarge oscillation family mod であり, と を満たす.
-
(3)
と のどちらかは に属する.
証明.
場合わけで証明する. から生成される (も含めた)フィルターを とする.
最初に がlarge oscillation family mod である場合を考えよう. このとき は真のフィルターであり である. ここで, とおけば命題の条件をすべて満たす.
次に がlarge oscillation family mod でない場合を考えよう. すると補題7からある とが存在し, さらに が存在して
である. ここでとおこう. すると である. ここで から生成されるフィルターを とする.このとき補題7 からは真のフィルターになっている. そして から なので である. そして とする. このがlarge oscillation family mod であることを見よう. から とから をとってくる. そして とする. このとき
なので,がlarge oscillation family mod であることから 補題7 から 任意の から である. これは が の任意の元と交わりを持つということを示している. よって 再び補題7から がlarge oscillation family mod であることが従う. ∎
命題 10.
を集合とし をその上のフィルター, そして をlarge oscillation family mod とし を単調写像 とする. このとき 上のフィルター と が存在して以下を満たす.
-
(1)
-
(2)
はlarge oscillation family mod であり, と を満たす.
-
(3)
準同型 が存在して を満たす.
証明.
適当に をとってくる. そして とおく. そして 各 に対して を
と定義する. そして を の添字づけとする. そして を
と定義する. さらに を から生成される (を含めた)フィルターとする. まずが準同型であることを見よう. 任意に をとる. ここで 一般にについて
となることに注意しよう. この観察のもと 以下の式変形をする.
ここで,ならとなるから
となるから となる. よって が準同型であることがわかる.
次に が真のフィルターであることを見てみよう. 写像が準同型であることから 任意の と 任意のについて であることを証明すれば良い. ここでとなる をとる. すると で がlarge oscillation family mod であることとの像が であることから となる.なので であり, を得る. これで が真のフィルターであることがわかった.
ここで を証明しよう.任意の をとる. このとき
である. 写像 は単調であったので, となるについて である. 故に
となるので が従う.
最後に が large oscillation family mod であることを証明しよう. 任意の とをとる. そして
とおく.このとき任意のと 任意の をとる.そして となるをとる. このとき がlarge oscillation family mod であることとであることから である. ここでなので がわかる. フィルターはという形の集合から生成されるから が large oscillation family mod であることがわかる. これで証明が終わる. ∎
定義 11.
集合 上のフィルター が可算非完備 であるとは ある可算列 が存在して と を満たすときにいう.
定理 12 (Kunen).
を無限基数とし を濃度が であるような集合とする. このとき上に 可算非完備な善良超フィルターが存在する.
証明.
冪集合の濃度は であるから この集合をで全単射に添字づけして とする. そして と から の濃度は である. よって の部分集合である 単調な写像全体を全射に添字づけしてそれを とする. ただしここで,各単調写像 について となる は個あるように添字づけする. これは であるから可能である.
今から超限再帰によって以下のような 列 と を構成する.
-
(K1)
各 について は上の真のフィルターであり はlarge oscillation family mod である.
-
(K2)
任意の について である.
-
(K3)
もしも が極限順序数であるときには と が成り立つ.
-
(K4)
任意のについて は有限集合である.
-
(K5)
は可算非完備である.
-
(K6)
任意の について か のいずれか一方は に属する.
-
(K7)
任意の について が を満たすとき準同型 が存在して を満たす.
まず と の構成をしよう. 命題 8 で保証されるlarge oscillation family mod を とする. そして をとる.そして とする.ここで の空でない部分集合の可算族 であって, , かつ となるものをとり から生成されるフィルターを とする.このとき はもちろん可算非完備である. 族が large oscillation family mod であることから がlarge oscillation family mod であることがわかる. すると 命題9 と命題10 から上記の性質を満たす と が構成できる. このとき
と定義する. 各 が真のフィルターなのでそのいずれも を含んでいない. よってもを含んでおらず これが真のフィルターであることがわかる. 条件(K6)から 任意の について と のいずれか一方は に属するので は超フィルターである. またが可算非完備であるから もそうである. このフィルター が善良であることを示すために 任意の を考える. 系3から であり の濃度は なので の定義から の像は十分大きい番号を持つ に含まれる. 添字づけ はダブりが回起こるようにとったので 十分大きいとなる についてとなる. するとは単調写像 となるので, 条件(K7)から 準同型 が存在しを満たす. よってが善良であることがわかる. これで証明が終わる. ∎
注意.
上記の証明において の定義をうまく変えることによって 上の善良超フィルター全体の濃度が となることがわかる. 今からそれを見よう. 記号は流用する. 部分族 で かつとなるものと を 任意にとって固定する. ところでこのようなは個あることに注意しよう(から当濃度で3分割して一つの成分の部分集合と他の成分の和集合を考えれば良い). そして から生成されるフィルターを とし, とする. 作り方からが 可算非完備なのはわかる. また と そして がlarge oscillation family mod であることから が有限交差性を持つことがわかる. よって は真のフィルターであることがわかる. ここでもしも と仮定する. ここで対称性から が取れるとしても一般性を失わない. このときは の元と空な交わりをもつ. そしてはと空でない交わりを常に持つ. よってごとのおよびそれを含む超フィルターはごとに絶対に相異なる. そしての選び方は 個あるので善良超フィルター全体が の濃度を持つことがわかる.
References
- [1] 齋藤正彦, 超積と超準解析, 東京図書, 1972.
- [2] W. W. Comfort and S. Negrepontis, On families of large oscillation, Fund. Math., 75 (1972), 275–290, doi: 10.4064/fm-75-3-275-290
- [3] G. Montagna, Good ultrafilter and saturated models, Bacheler Thesis, 2019, Delft University of Technology, Netherland. https://repository.tudelft.nl/record/uuid:f5cc2f93-556f-46b6-9833-a2d08b33538e
- [4] K. Kunen, Ultrafilters and independent sets, Trans. Am. Math. Soc. 172, 299–306 (1973) doi: 10.2307/1996350.