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ブラウワーの不動点定理と同値な命題

ナンブキトラ
HTML変換日:2026年7月26日

この文書ではブラウワーの不動点定理と同値な命題を紹介する. 同値性しか紹介しないので,実際にこれらを使って楽に不動点定理を証明できるとかそういう効能はない. 一応閉球体からその境界へのレトラクトが存在しないことをホモロジーを用いて紹介している. これらの命題はおいおいユークリッド空間の位相次元を計算する記事だとか領域不変性定理の記事だとかで用いられる予定だとかである.

1 本文

定義 1.

Xを位相空間とし A, B, Cをその部分集合とする. A∩B=∅と仮定する. このときCがAとBを分離する とは開集合UとVが存在して A⊂U, B⊂V, U∩V=∅そして X∖C=U⁢∐V を満たす時にいう. この時必然的にCは閉集合になることに注意しよう.

まずは次の準備補題から始めよう.

補題 2.

Aを [−1,1]の閉集合で尚且つ {−1} と {1} を分離しているとする. そして [−1,1]∖A=U⁢∐Vとし 1∈Vとする. このときVの任意の元xについて

|x−d⁢(x,A)|≤1

である.

証明.

まず最初に 0≤x−d⁢(x,A) のときを考える. このとき0≤d⁢(x,A)なので |x−d⁢(x,A)|≤x−d⁢(x,A)≤x≤1 がわかる. 次に0≤d⁢(x,A)−xのときを考える. このときc=min⁡Aについて, Aが{−1}と{1} を分離することから −1<cである. またUとVの定義と1∈Vであることから c<xである. よって d⁢(x,A)≤|x−c|=x−cとなる. すると |x−d⁢(x,A)|=d⁢(x,c)−x=x−c−x=−c<1 となる. ∎

定義 3.

n∈ℤ≥1とする. このとき 𝐃n={x∈ℝn∣∥x∥≤1} とし 𝐒n−1={x∈ℝn∣∥x∥=1} と定義する.ここでノルム∥∗∥は通常の内積から誘導されるノルムとする.つまり 𝐃nはn次元閉球体で 𝐒n−1はその境界であるn−1次元球面である.

定義 4.

n∈ℤ≥1とし, i∈{1,…,n} とする. このとき 𝐈n=[−1,1]n と定義し 𝐈+n,i={x∈𝐈n∣xi=1} で 𝐈+n,i={x∈𝐈n∣xi=−1} と定義する. さらに ∂𝐈nを𝐈nの境界集合 とする. このとき ∂𝐈n=⋃i=1n𝐈+n,i∪𝐈−n,i であることに注意しよう. また 𝐈n は𝐃nに同相であり, ∂𝐈nは 𝐒n−1 に同相であることにも注意しよう.

この文書の主定理は以下である.

定理 5.

n∈ℤ≥1について以下は同値である.

  1. (1)

    (No retraction theorem) レトラクション r:𝐃n→𝐒n−1 は存在しない.

  2. (2)

    (Brouwer’s fixed point theorem) 任意の連続写像 f:𝐃n→𝐃n は不動点を持つ.

  3. (3)

    i∈{1,…,n}を添字とする 閉集合Ci⊂𝐈n の族が𝐈+n,i と𝐈−n,i を分離するならば ⋂i=1nCi≠∅ を成り立つ.

  4. (4)

    (the Poincaré-Miranda theorem) i∈{1,…,n}を添字とする連続写像の族 fi:𝐈n→ℝが fi⁢(𝐈+n,i)⊂[0,∞) と fi⁢(𝐈−n,i)⊂(−∞,0] を満たすならば, ある点p∈𝐈n が存在して fi⁢(p)=0が成り立つ. つまり共通零点が存在する.

証明.

[(1)⟹(2)] いつものやつである. 不動点を持たない連続写像 f:𝐃n→𝐃n が存在するとしよう. このとき このときf⁢(x)から xへと線分を伸ばして 𝐒n−1と交わる点をr⁢(x)と定義すると, これは𝐒n−1上ではr⁢(x)=xを満たす. またxとyが十分近いときに (1−t)⁢f⁢(x)+t⁢xと(1−t)⁢f⁢(y)+t⁢yも十分近いという事実から rの連続性も従う(凸な基本近傍形が取れるなどの事実も使うのだろう). あるいは(1−t)⁢f⁢(x)+t⁢xのノルムが1になるt>0を二次方程式を解いて具体的に記述するのでも良い. とにかく連続なレトラクション r:𝐃n→𝐒n−1 が存在するので(1)に反し, 背理法により (2)が成り立つ.

[(2)⟹(3)] 各i∈{1,…,n} に対して 𝐈n の開集合Pi, Niを 𝐈n∖Ci=Ni⁢∐Pi で 𝐈+n,i⊂Piかつ 𝐈−n,i⊂Ni を満たすものをとってくる. このような開集合の組みは複数個あり得るかもしれないがとにかく一つとってくる(Ciの補集合の連結成分が二つより大きいことがあり得るからである). そして 写像mi:𝐈n→ℝ を

mi⁢(x)={d⁢(x,Ci)x∈Ci∪Pi−d⁢(x,Ci)x∈Ci∪Ni

と定義する. このとき Ci∪Pi と Ci∪Ni はともに閉集合で, これらの共通部分である Ci上では d⁢(x,Ci) と −d⁢(x,Ci)は同じ値0を取り, Ci∪Pi と Ci∪Ni上ではもちろん連続なので 貼り合わさって miはちゃんと定義され連続になる. そして fi:𝐈n→ℝ を

fi⁢(x)=xi−mi⁢(x)

と定義する. このとき |fi⁢(x)|≤1 となることを今から証明しよう. x∈Piのときのみ証明する.他の場合は同様に証明できる. このときfi⁢(x)=xi−d⁢(x,Ci)である. まず 0≤xi−d⁢(x,Ci) のときは0≤d⁢(x,Ci)なので

|fi⁢(x)|=xi−d⁢(x,Ci)≤xi≤1

であるから求める結果が成り立つ. 次に0≤d⁢(x,Ci)−xiの場合を調べる. このとき xを通る直線で 𝐈+n,i と𝐈−n,iに垂直なもの,つまり L={z∈𝐈n∣zk=xk,k≠i} を考える.そしてaをL∩𝐈+n,iを構成する唯一の点とし 同様にbをL∩𝐈−n,iを構成するただ唯一の点とする.つまりaはi成分が1でそれ以外が xと同じ成分であり,bはi成分が−1でそれ以外が xと一致するものである. するとL∩CiはLの部分集合として aとbを分離する. 今Lと[−1,1]を同一視すれば 補題2が適応できて |xi−d⁢(x,L∩Ci)|≤1となる. さて|fi⁢(x)|を計算しよう.

|fi⁢(x)|=d⁢(x,Ci)−xi≤d⁢(x,L∩Ci)−xi=|d⁢(x,L∩Ci)−xi|≤1

以上の計算より求める不等式を得る. 上の議論からどんな状況においても |fi⁢(x)|≤1が成り立つことがわかった. ここで写像f:𝐈n→𝐈n をf=(f1,…,fn)で定義する.さっき証明した不等式からfの地域はちゃんと𝐈n になっている. よって(2)から不動点pが存在する. fの定義からこのpは d⁢(p,Ci)=0を満たす. つまりp∈⋂i=1nCi なので⋂i=1nCi≠∅ がわかるので (3)が成り立つ.

[(3)⟹(4)] 各i∈{1,…,n} とk∈ℤ≥0について Li,k={x∈𝐈n∣|xi|≤1−2−k} とおく. そして 写像 wi,k:𝐈n→𝐈n を

wi,k⁢(x)=xi⋅d⁢(x,Li,k)

と定義する. そしてgi:𝐈n→𝐈n を gi,k⁢(x)=fi⁢(x)+wi,k⁢(x) と定義する. この時常に gi,k⁢(𝐈+n,i)⊂(0,∞) でgi,k⁢(𝐈−n,i)⊂(−∞,0) である. よって Ci,k=g−1⁢({0}) は𝐈+n,iと 𝐈−n,i を分離する閉集合である. 故に (3)から ⋂i=1nCi,k≠∅ である.この集合から点pkをとる. このとき𝐈n のコンパクト性から収束する部分列{pϕ⁢(k)}k∈ℤ≥0が存在する.その収束先をpとする. さてgi,kはfiに一様収束するので, k→∞のとき gi,ϕ⁢(k)⁢(pϕ⁢(k))→fi⁢(p) である. よって任意のi∈{1,…,n} についてfi⁢(p)=0となる. つまり (4) が成り立つ.

[(4)⟹(1)] まず𝐈nと 𝐃n, そして 𝐒n−1 と∂𝐈n を同一視する. 背理法のためにレトラクション r:𝐈n→∂𝐈n が存在すると仮定する. このときrの各成分riはもちろん ri⁢(𝐈+n,i)⊂[0,∞) と ri⁢(𝐈−n,i)⊂(−∞,0] を満たすので,(4)からあるp∈𝐈n が存在してr⁢(p)=0を満たす. しかしこれは rの値域が ∂𝐈n であることに反するので 上記のようなレトラクションは存在しえない. よって (1) が成り立つ. ∎

上の定理だけだと,同値性しか証明していないので, 不動点定理が実際に正しいのかどうかは判断できない. しかし以下のことが知られているので,上で述べたすべての命題は正しいことがわかる.

定理 6.

任意のn∈ℤ≥1について レトラクションr:𝐃n→𝐒n−1 は存在しない.

証明.

n=1のときは中間値の定理からレトラクションの不存在がわかる.以下では1<nとする. また Hi⁢(∗)でホモロジー群の関手を表すとする. 上記のようなレトラクションが存在したとしよう. このときιを𝐒n−1から 𝐈nへの包含写像として r∘ι=1𝐒n が成り立つので,n−1について

Hn−1⁢(r)∘Hn⁢(ι)=Hn−1⁢(1𝐒n)=1Hn−1⁢(𝐒n−1)

となる. 故にHn−1⁢(ι):Hn−1⁢(𝐒n−1)→Hn−1⁢(𝐃n) は単射になる. ところで Hn−1⁢(𝐃n)≅{0} で Hn−1⁢(𝐒n−1)≅ℤ なので, 単射Hn−1⁢(ι)の存在はあり得ない. よって レトラクションrは存在しえない. ∎

注意.

一応ホモロジーなどの結構高等な概念を使わずに, 逆関数定理や積分の変数変換公式を使って ブラウワーの不動点定理を証明できる. 電波通信の記事[2]を参照のこと.

球面や球体の ホモロジーの計算などは [1]などに載っている.

References

  • [1] みなずみ, webページ 数学ノート∣単純思考 「切除定理」, https://minazumi.com/math/note/tgy/ch02sec02.html
  • [2] 電波通信 「不動点定理」 https://concious4410.hatenablog.com/entry/2017/08/27/182714
  • [3] W.Hurewicz and H.Wallman,Dimension Theory,Princeton Univ. Press,1948
  • [4] W. Kulpa, The Poiancré–Miranda Theorem, Am. Math. Mon. 104, No. 6, 545–550 (1997) doi: 10.2307/2975081