ブラウワーの不動点定理と同値な命題
この文書ではブラウワーの不動点定理と同値な命題を紹介する. 同値性しか紹介しないので,実際にこれらを使って楽に不動点定理を証明できるとかそういう効能はない. 一応閉球体からその境界へのレトラクトが存在しないことをホモロジーを用いて紹介している. これらの命題はおいおいユークリッド空間の位相次元を計算する記事だとか領域不変性定理の記事だとかで用いられる予定だとかである.
1 本文
定義 1.
を位相空間とし , , をその部分集合とする. と仮定する. このときがとを分離する とは開集合とが存在して , , そして を満たす時にいう. この時必然的には閉集合になることに注意しよう.
まずは次の準備補題から始めよう.
補題 2.
を の閉集合で尚且つ と を分離しているとする. そして とし とする. このときの任意の元について
である.
証明.
まず最初に のときを考える. このときなので がわかる. 次にのときを考える. このときについて, がと を分離することから である. またとの定義とであることから である. よって となる. すると となる. ∎
定義 3.
とする. このとき とし と定義する.ここでノルムは通常の内積から誘導されるノルムとする.つまり は次元閉球体で はその境界である次元球面である.
定義 4.
とし, とする. このとき と定義し で と定義する. さらに をの境界集合 とする. このとき であることに注意しよう. また はに同相であり, は に同相であることにも注意しよう.
この文書の主定理は以下である.
定理 5.
について以下は同値である.
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(1)
(No retraction theorem) レトラクション は存在しない.
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(2)
(Brouwer’s fixed point theorem) 任意の連続写像 は不動点を持つ.
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(3)
を添字とする 閉集合 の族が と を分離するならば を成り立つ.
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(4)
(the Poincaré-Miranda theorem) を添字とする連続写像の族 が と を満たすならば, ある点 が存在して が成り立つ. つまり共通零点が存在する.
証明.
[] いつものやつである. 不動点を持たない連続写像 が存在するとしよう. このとき このときから へと線分を伸ばして と交わる点をと定義すると, これは上ではを満たす. またとが十分近いときに とも十分近いという事実から の連続性も従う(凸な基本近傍形が取れるなどの事実も使うのだろう). あるいはのノルムがになるを二次方程式を解いて具体的に記述するのでも良い. とにかく連続なレトラクション が存在するので(1)に反し, 背理法により (2)が成り立つ.
[] 各 に対して の開集合, を で かつ を満たすものをとってくる. このような開集合の組みは複数個あり得るかもしれないがとにかく一つとってくる(の補集合の連結成分が二つより大きいことがあり得るからである). そして 写像 を
と定義する. このとき と はともに閉集合で, これらの共通部分である 上では と は同じ値を取り, と 上ではもちろん連続なので 貼り合わさって はちゃんと定義され連続になる. そして を
と定義する. このとき となることを今から証明しよう. のときのみ証明する.他の場合は同様に証明できる. このときである. まず のときはなので
であるから求める結果が成り立つ. 次にの場合を調べる. このとき を通る直線で とに垂直なもの,つまり を考える.そしてをを構成する唯一の点とし 同様にをを構成するただ唯一の点とする.つまりは成分がでそれ以外が と同じ成分であり,は成分がでそれ以外が と一致するものである. するとはの部分集合として とを分離する. 今とを同一視すれば 補題2が適応できて となる. さてを計算しよう.
以上の計算より求める不等式を得る. 上の議論からどんな状況においても が成り立つことがわかった. ここで写像 をで定義する.さっき証明した不等式からの地域はちゃんと になっている. よって(2)から不動点が存在する. の定義からこのは を満たす. つまり なので がわかるので (3)が成り立つ.
上の定理だけだと,同値性しか証明していないので, 不動点定理が実際に正しいのかどうかは判断できない. しかし以下のことが知られているので,上で述べたすべての命題は正しいことがわかる.
定理 6.
任意のについて レトラクション は存在しない.
証明.
のときは中間値の定理からレトラクションの不存在がわかる.以下ではとする. また でホモロジー群の関手を表すとする. 上記のようなレトラクションが存在したとしよう. このときをから への包含写像として が成り立つので,について
となる. 故に は単射になる. ところで で なので, 単射の存在はあり得ない. よって レトラクションは存在しえない. ∎
注意.
一応ホモロジーなどの結構高等な概念を使わずに, 逆関数定理や積分の変数変換公式を使って ブラウワーの不動点定理を証明できる. 電波通信の記事[2]を参照のこと.
球面や球体の ホモロジーの計算などは [1]などに載っている.
References
- [1] みなずみ, webページ 数学ノート単純思考 「切除定理」, https://minazumi.com/math/note/tgy/ch02sec02.html
- [2] 電波通信 「不動点定理」 https://concious4410.hatenablog.com/entry/2017/08/27/182714
- [3] W.Hurewicz and H.Wallman,Dimension Theory,Princeton Univ. Press,1948
- [4] W. Kulpa, The Poiancré–Miranda Theorem, Am. Math. Mon. 104, No. 6, 545–550 (1997) doi: 10.2307/2975081