バナッハ・ストーンの定理:おまけ
別のpdfのおまけとして書いていたが,やたら複雑な議論 をやっていたので,独立した文書として残す.
『この文書では コンパクトハウスドルフ空間 上の 関数空間 の等長類がの位相的情報を 持っているということを述べた Banach–Stoneの定理を紹介する. 双対空間の有界閉集合のextreme pointがディラック測度になっていることを使って証明するという方針は聞いていたので,実際にやってみたら自力で証明できたので文書として残しておく.』 ということになっていたが証明が間違っていたので頑張って修正する. コンウェイの関数解析の教科書[8] などを参考にした.
1 準備
定義 1 (extreme point).
局所凸空間の凸集合 の点 がextreme point であるとは, 任意の についてもしもが存在して ならば となるときにいう. 凸集合 のextreme point 全体の集合を と書くことにする.
定義 2.
コンパクトハウスドルフ空間 に対して でその上の実(複素)連続関数の全体を表すとする. ノルムとしてノルムを導入すると は実(複素)バナッハ空間になる.
2 測度に関する準備
定義 3.
を局所コンパクトハウスドルフ空間とする. このとき上の測度がRMK測度であるとは以下の条件を満たすときにいう
-
1.
はに値をとるボレル測度である.
-
2.
の任意のコンパクト集合について
-
3.
の任意のボレル集合は外部正則である.つまり が成り立つ.ここではの開集合系である.
-
4.
が開集合もしくはならばは内部正則である.つまり, が成り立つ.ここではのコンパクト集合全体である.
上のRMK測度全体をと書くことにする.また, 上の有限RMK測度全体の集合をと書くことにする. もちろんがコンパクトハウスドルフ空間のときにはである.
上の符号付き測度で二つのRMK測度の差で表されるもの全体をと書くことにする. また,上の複素測度で,を用いて の形で表されるもの全体をと書くことにする.
定義 4.
-可換モノイドについて, その線形空間化 を次のように定義する. まず上の関係を次のように定義する. とはである. するとは上の同値関係となる. そして とし,演算をと定義する. この演算については可換群になっている. 単位元はであり, の逆元 はである. また,について
と定義し,の場合には
と定義すると,は先ほど定義したとこのスカラー倍について 上の線形空間になる.
注意.
は加法について見ればのグロタンディーク群とみなせるが, この文章では-可換モノイドを上の線形空間にするために スカラー倍という付加的な構造が乗っかっている.
定理 5 (実Riesz-Markov-Kakutani).
をコンパクトハウスドルフ空間とする.このとき 線形空間としての同型
が成り立つ.
定理 6 (複素Riesz-Markov-Kakutani).
をコンパクトハウスドルフ空間とする.このとき 線形空間としての同型
が成り立つ.
定義 7.
命題 8.
を 局所コンパクトハウスドルフ空間上の RMK複素測度とする. このとき全変動 もRMK測度になる.
証明.
せかせかやるとわかる. ∎
命題 9.
とする. このとき の作用素ノルムは 全変動の作用素ノルムに等しい.
証明.
ラドンニコディム微分 はほとんど至るところ 絶対値が1の複素数であった. このことと(下からの)単関数近似および が正規であることを用いるとわかる. ∎
3 本文
定義 10.
実でも複素でもバナッハ空間の双対空間を で表すことにする.
定義 11.
をかのどちらかとする. このとき を 集合 と定義する.
命題 12.
をかのどちらかとする. をコンパクトハウスドルフ空間とする. を のを中心とする半径の閉球体とする. このとき が成り立つ.
証明.
まず を示そう. 任意の をとる. そして が
を満たしている と仮定する.今からを示したいが, ここでとしても良い. つまり
と仮定する. ここで上のボレル測度 を とすると であり, を用いて かつ とかける.ここで である. 背理法のためにと仮定しよう. 測度および全変動もRMK測度なので と外部正則性 から との十分小さい開近傍で かつ となるものが存在する. するとの正規性そして から 連続写像 でとなり の外ではになるものが存在する このとき となるがこれはに反する. よってである. 同様にである. このようなが となるためにはかつでなければならない.つまり かつ である. さてもしも がゼロ測度でなければ となるボレル集合 が存在する. ここで を任意にとる. 内部正則性から コンパクト集合が存在して かつ である. よって再びの正規性やら外部正則性などを用いて の十分小さい近傍と の十分小さい近傍が存在して でかつとできる. そしての正規性から が存在して はでの外では そしては 上でをとり の外ではとなるようにする. このとき かつ でとのサポートは交わらないようにできる. さて
とし 以下の計算をする.
以上から となりの任意性から となるが これは に反する. よって はゼロ測度である. つまり である. よって である.
次にをとろう. まずはをかける操作で閉じているので はextreme pointではない. よって は特にゼロ測度ではない. 故にのサポートは空でない閉集合である. ここで,のサポートとは, の零集合となる開集合全ての和集合の補集合である. 点をのサポートから取ろう. 今からのサポートが であることを証明する. 背理法のために を含まないボレル集合 であって となるものが存在すると仮定しよう. ここで内部正則性からは コンパクトとしても良い. すると 外部正則性と,そしての正規性から の十分小さい開近傍とで で となるものが存在する. よって再びの正規性から であって で1をとりの外でになるものが存在する. ここで
とおく. このとき である. また は開集合でのサポートと交わっているので となる. よって である. さらに
が成り立つので である. そして かつ とすると と は に属しさらに
となるので はextreme pointにならない. これは矛盾である. よって の測度正な集合は と交わりを必ずもつ. この状況で測度は の形をしており, extreme pointであるという仮定から でなければならないので が成り立つ. ∎
注意.
実はボレル測度のサポートの補集合となる開集合が零集合になるかどうかは集合論的に決定不可能な問題を含んでいる. 上の議論はそんなことを用いてないので問題ない.
定理 13.
とをコンパクトハウスドルフ空間とする. そして を 等長全単射写像とする. このとき 同相写像と でとなるものおよび が存在して となる. 特に と が等長同型ならば と は同相である.
証明.
まずMazur–Ulamの定理(定理14)から はアフィン写像となる. よって以下ではは線型写像としても良い. は等長なので 等長写像 を誘導する. 今と でそれぞれ と のを中心とする単位閉球体を表すとする. なので となる. さらにの線形性から となる. よって 任意の について となる と写像が存在する. 今からと が連続であることを証明しよう.
本題に入る前に と をディラック測度で埋め込む写像とする. この時コンパクトハウスドルフ空間が完全正則であることから これらの写像は位相的埋め込みになっていることに注意しよう.
まず最初には汎弱位相の間の同相写像 でもあることに注意しよう. このことと が位相的埋め込みであることから を噛ませて となる. 位相では連続なので も連続である. 故にの 連続性がわかる.
の連続性を考えよう.上の議論でが連続であることがわかったので も連続である. これは集合に属するので も連続である. 次にの単射性を考察しよう. について と仮定しよう. このとき
となる.よって
となる.さらには線形なので
となり は単射なので
となる. ここでもしもならば は完全正則なので特に 異なる2点に対して となる が存在する. このから上の式を用いて
となるがこれは に矛盾するので でなければならない. よっては単射である. 次に全射性を考えよう. 任意のを任意にとる. このときだからについて となる が存在する. このとき なのでの定義から となる. よっては全射である. はコンパクトハウスドルフ空間同士の間の連続写像であるから特に同相である.
任意のについて であるから を噛ませると つまり となる.
∎
4 Mazur–Ulamの定理
定理 14.
とをバナッハ空間とする. このとき 等長同型 はアフィン写像である.
5 間違っていた方の証明の風味を残した節
定義 15.
コンパクトハウスドルフ空間 について で 上のラドン測度であって 確率測度になっているもの全体を表すことにする. また で上のディラック測度全体を表すことにする.
命題 16 (リース・マルコフ・角谷の定理の応用).
をコンパクトハウスドルフ空間とする. そしてを の部分集合であって(ここで左辺のは上の定数関数である)かつ任意のについてならば となるもの全体とする. すると はと自然に同一視できる. この同一視のもと はの閉有界凸集合である.
証明.
前半の証明というか,どのように同一視するかの説明である. にリース・マルコフ・角谷の定理([1])を適応して 上のラドン測度を得る(ものぐさで同じ記号で書くことにする).これが確率測度であることは から従う. 逆に についてを対応させる(ものぐさで同じ記号で書く)ととなる. 次にが の閉有界凸集合であることを示そう. まず凸集合であることは確率測度の線型結合が確率測度であるから大丈夫.有界性は からになるからわかる. 閉集合であることを示そう. とを同一視しているのでが閉集合であることを示せば良い. これはの条件が極限で保たれることから従う. ∎
命題 17.
をコンパクトハウスドルフ空間とする. このとき が成り立つ.
証明.
まず を示そう. 任意の をとる. ここでについて が存在して としよう. このとき について測度をとると となる. つまり がわかるので である.よって である.
逆の包含関係を示そう. をとる. 背理法のために のボレル集合で かつ であるものが存在して かつ となると仮定する. このとき かつ とするとかつ で
である.ここでに注意せよ. 以上から はextreme pointではない.これは矛盾である.
よって以下の主張が成り立つ.
-
(Cl)
任意の のボレル集合がかつ を満たすならば か を満たす.
ここで をのコンパクト集合で について正の測度をもつものとする. の有限個の元 について背理法のために と仮定する. このとき なので,あるについて は正の測度をもつ. これは主張(Cl)に矛盾するので である. つまり は有限交差性をもつので である. ここでもしが測度ゼロなら がラドン測度であることから 測度正のコンパクト集合を含むので 矛盾する. よって である. ここで点をとる.もしもが測度ゼロならば がラドン測度であることを用いて で となるコンパクト集合 がとってこれるが, とは矛盾するので は測度正になる. よって がわかる. さらに先ほどの主張(Cl)からは測度ゼロになるので である. これで がわかるので となる. ∎
命題 18.
と は同相である. ここで には位相を入れて考えている.
証明.
が完全正則空間であることから従う. ∎
以下の定理でをつけずに証明をしていたのが前のバージョンのこの文書の間違いであった.
定理 19 (廉価版Banach–Stoneの定理).
とはコンパクトハウスドルフ空間とする. このとき線形等長同型写像 が存在し,(ここで定数関数としてのである) を満たすならば と は同相である.
証明.
定理の線形等長同型 が誘導される. さらに線形な同型写像 が誘導される. ここでは を満たすので を に移す.さらには線形なので を に移す. よって と が同相であることが従う. ∎
注意.
実は一般にバナッハ空間の間の等長同型はアフィンであることがわかる(Mazur–Ulamの定理([6][7]))ので, 定理19のが線形という仮定は不要である. さらにFullのBanach–Stoneの定理は等長写像の具体的な形まで決定するものなので,定理19 は廉価版でしかない. ところで上の定理19にはコンパクト性を用いていないように見えるし,命題18では完全正則性しか使っていない.よって一般に完全正則空間に対してその有界な実連続関数でも同様のことが成り立ちそうに見える.しかし実は命題 17でコンパクト性を用いており,さらにコンパクト性がなければ成り立たないのである. 実際一般に完全正則空間について はと等長同型になるので, とが同型であるだけだと とが同相であることしかわからないのである.ところで実はとが第一可算な完全正則空間だと とが同相であることからと が同相になることが導出できるので([5, p.273], [3, 21.5系, 116ページ]), 一応定理19をノンコンパクトな場合に拡張することはできる. 特にと が距離化可能空間の時に と が等長同型であるならば と は同相である.
References
- [1] はてなブログ電波通信, 「リース・マルコフ・角谷の表現定理の証明(入射角16.225°の測度論入門2)」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2015/10/28/213025
- [2] はてなブログ電波通信, 「Riesz-Markov-Kakutaniの表現定理II」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2020/02/02/213341
- [3] 児玉之行,永見啓応, 位相空間論 ,岩波書店, 1974
- [4] 宮島静雄, 関数解析, 横浜図書, 2005.
- [5] L. Gillman and M. Jerison, Rings of continuous functions. Reprint of the 1960 original published by Van Nostrand Company. Mineola, NY: Dover Publications.
- [6] B. Nica, The Mazur-Ulam theorem, Expo. Math. 30, No. 4, 397–398 (2012; Zbl 1267.46023) doi: 10.1016/j.exmath.2012.08.010
- [7] J. Väisälä, A proof of the Mazur-Ulam theorem, Am. Math. Mon. 110, No. 7, 633–635, doi: 10.2307/3647749
- [8] J. B. Conway, A course in functional analysis, 2nd ed. 1990, GTM 96, Springer-Verlag.