数学的失敗とその教訓:ファイバーバンドル
この文章ではファイバーバンドルの理論を 被覆の言葉だけで記述しようとした場合に起こった大失敗を 紹介する.
経緯を述べると6年くらい前に ファイバーバンドルの理論を勉強しようと思ったのだが, なんか難しくって,聞くところによるとバンドルの理論というのは被覆の言葉で書き直せるとのことであった. 被覆の方が私に馴染みがあったし, またバンドルを被覆の言葉で記述した場合, (確か一次の)非可換(チェック)コホモロジー と見做せるのでそのように記述した方が都合がいいと思って ファイバーバンドルの理論を被覆の言葉で書き直したPDF を用意していた. しかしながら, プルバックのホモトピー不変性を証明するに至って, あまりにも証明が書き直せないことから6年くらい塩漬けになっていた.勉強も塩漬けになっていた.
最近年末の大掃除をしている時に 塩漬けになっているのを再発見して なんとかプルバックのホモトピー不変性 を証明できないかと唸っていたところ, おそらく成功したので,また将来の私が困らないように メモとして残しておく. 成功したかどうかよくわからないが, アイデアの方向性はあっていると思うのでメモを残して これ以上この方向で進むのをやめろという警告とする.
証明が精密でなくとも,この方向でやろうとするのはやめろという警告程度にはなるだろう.
端的に言って,バンドルの理論は写像の言葉で行った方が とても良い.
元々の未完成のPDFをこの文章の後にくっつけておく. 完成する予定だったのでうまくいったとか書いているが, 完成してないしうまくもいっていない.
1 何を定義したのか?
まずオリジナル版では添字付きの被覆を定義し,変換関数を 導入する. 元々電波通信はやぼったいほど基礎的なことを書き込み方針だったのだ.
定義 1 (添え字付き開被覆).
集合からへの写像が
を充たすとき、を添え字付き開被覆といい、のことを添え字という。 のにおける値をと書いたりする。また、 なまぐさをしてのことをとか書いたりする。
集合として同じでも添え字が違う場合は別のものとして扱いたいので添え字付き開被覆を用いる。 大げさだが、つぎのように定義する。
つまりはの開集合からへの写像を全部集めた集合である。 また集合に対してでを表すことにする。
定義 2 (変換関数).
をの添え字付き開被覆とし、その添え字をとする。がに付随する変換関数であるとは次の条件を充たすときに言う。111以下ではをと書くことにする。
-
(1)
の定義域はである。
-
(2)
は連続写像である。
-
(3)
(コサイクル条件)
注意.
のときは空写像である。また、のとき条件は真になることに注意しよう。
注意.
コサイクル条件からのときとなることや、 のときが成り立つことなどがわかる。
ついで 抽象束 なる概念を位相空間の上の被覆と変換関数の集まりで定義する.
定義 3.
位相空間と位相群に対して、 と、添え字集合とを添え字に持つ上の添え字付き開被覆, およびに付随する変換関数の五つ組のことを上の-抽象束(もしくは上の-変換関数付き開被覆、またはの-チェックコサイクル)と呼ぶ。 を底空間、をこの束の構造群と呼ぶ。 上の-抽象束全体をと書く。222はcocycleのcである。
注意.
抽象束にはファイバーがないことに注意せよ。
例 4.
任意の位相空間と位相群を与える。添え字付き開被覆をと定義し、変換関数をと定義する333の場合にはは空写像と定義する。とは抽象束になる。この束のことを自明束という。 どんな位相空間と位相群についても である。これは上の自明束が常に存在するからである。
バンドルの理論の教科書などに書いている通り, このような「抽象束」 というのはファイバーバンドルと同じのはずであり (ファイバーを指定していないので主束と同じのような気がする), ファイバーバンドルの理論をこの「抽象束」 の言葉で書き換えることができてしかるべきである.
次に束同士の同値性について定義するのである.
以下では抽象束をフラクトゥールの一文字で表す。
1.1 抽象束の束同値
二つの-抽象束が束同値であるということを定式化する。
定義 5.
について
とする。任意のについて連続関数
が存在して、以下の条件を充たすときとは束同値であるという。
-
(1)
-
(2)
-
(3)
-
(4)
-
(5)
-
(6)
とが束同値であることを
と表す。
注意.
はからへの変換で、はからへの変換であり、
を充たす。
さすがにファイバーがないと束同士の写像は定義できない。
オリジナルのPDFでは単位区間のバンドルが全て自明であることを証明しようとした痕跡がある.
「区間のあれ」 と書かれている補題は, 単位閉区間にルベーグ数の存在とかを適応して 被覆度が高々の被覆で細分できることを示したかったのだと思う.
補題 6.
区間のあれ
区間上の束が自明であることを証明するために 変換関数を頑張って引き伸ばすことをしている.
命題 7.
単位閉区間と任意の位相群について、
つまり上の抽象束はすべて自明束である。
証明.
を上の抽象束とする。 この束の被覆はという形で、
を充たすとしてよい。さて、を
となるようにとる。
である。
を
のとき(のときは) と定義する。上では なのでの上でなのでは自明である。よっても自明である。 ∎
2 束同値に関する注意
上で定義した束同値だが,同型として強すぎる. 二つの主束とがあったときにこれらの局所自明開被覆を全く同じように取れるかどうかは全く自明ではない. というか成り立たない. よって 束同値は主束の話だと思うと, とに共通の局所自明開被覆が取れて尚且つ同型というかなりきつい同型になっている. なので通常の意味での主束の同型を被覆の言葉で書きたいのであれば,二つの抽象束それぞれの細分が存在してそれが上の意味での束同値という風に修正しなければならない. このことに気が付かなかったのが オリジナルの文書の執筆を滞らせる一因になっていた.
3 何を証明したかったのか?
以下のような命題が証明したかったはずである. この命題は 大まかには ファイバーバンドルのプルバックの ホモトピー不変性である.
定理 8.
をパラコンパクトハウスドルフ空間とし, を 上の 抽象束とする. このとき と は束同値である.
全く証明できなかった. 色々頑張ると次のようなことは証明できる.
命題 9.
をパラコンパクトハウスドルフ空間とする。 上の束はという形の添え字付き被覆を持つ抽象束と束同値である。
この命題はつまり局所自明な被覆として という形のものが取れるということである.
4 定理8の証明? 大体こういう感じでできると思う
今からの被覆は常に 命題9のようなものとする. さらに局所有限とする. そして とする.
ととなる に対して の -変形 を以下のように定義する. で変換関数は とする.ただしに は含まれていないとする. このとき は と同値である. なぜなら しているからである. また を 上の束で変換関数が となるものとする.
一般に有限個の と で とような について -変形 を 以下のように定義する. で 変換関数は とする. このとき これは元の被覆と同値である. なぜなら 2枚の場合を考えるとそれは -変形と に対する 変形なので は に同型で, はに同型なので 結局同型である. この議論はようは ということである.
ついで 一般のとについて -変形を 定義する.まず添字集合は整列されているとして, で 変換関数は とする. ただし たちにはは含まれていないとする. まず被覆になっていることを示す. 点をとる. となるものが存在しない時は をとると である. となるものが存在するときは局所有限なので が存在して これらしか を含まない. が一番大きいとすると なので被覆である. これはもとの被覆と同値である. の周りを考えると有限回の反復なので 有限の場合の話から大丈夫. つまりの局所有限性を体現する近傍 を取り による被覆 で を細分してその上で議論をするとわかると思う. よってを変換関数とする と とを変換関数とする が同値であることがわかった.たぶん.
大人しく写像の話でバンドルを議論した方がよい.
References
- [1] (1958) Homotopy equivalence of fiber bundles. Proc. Amer. Math. Soc. 9, pp. 178–182. External Links: ISSN 0002-9939,1088-6826, Document, Link, MathReview (W. S. Massey) Cited by: 数学的失敗とその教訓:ファイバーバンドル.
- [2] (1968) A note on numerable covers. Proc. Amer. Math. Soc. 19, pp. 1130–1132. External Links: ISSN 0002-9939,1088-6826, Document, Link, MathReview (J. Dugundji) Cited by: 数学的失敗とその教訓:ファイバーバンドル.
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- [8] (1971) Partitions of unity in homotopy theory. Compositio Math. 23, pp. 159–167. External Links: ISSN 0010-437X,1570-5846, MathReview (Robert Freeman Brown) Cited by: 数学的失敗とその教訓:ファイバーバンドル.