距離空間上の確率測度
この文章では, 距離空間上の確率測度の基本的な性質や, 確率測度からなる空間の話をする.
1 基本的な定義や定理など
定義 1.
位相空間に対して,の開集合系から生成される 完全加法族をと書くことにする. この集合族をボレル集合族と呼ぶ.
定義 2.
測度空間 上の測度 が 確率測度であるとは, を満たすときにいう. が確率測度であるとき,測度空間 を 確率空間と呼び, の元のことを 事象と呼ぶ.
定義 3.
確率空間 から 可測空間への可測写像可測写像を -値確率変数と呼ぶ. あるいは紛れがないときには単に 確率変数と呼んだりもする.
定義 4.
確率空間 とその上の確率変数について を と書いたりする. 特に を の期待値と呼んだり, の平均値と呼んだりする. そしてに対して, をの次モーメントと 呼んだりする. であるときは 関数とか言ったりするが,これは測度論と同じ言葉遣いである. また, をの分散と呼ぶ. 簡単な式変形で となることがわかる.
定義 5.
を確率空間とし, を可測空間とする. このとき可測写像に対して 写像 を と定義するとこれは 上の測度になる. この測度 をによるの押し出し測度と呼ぶ.
定義 6.
を位相空間とする. このとき,可算個のの開集合の共通部分で表される集合を 集合と呼ぶ. また,の可算個の閉集合の和集合で表される集合を 集合と呼ぶ.
定義 7.
を位相空間とする. 上の ボレル集合族上で定義された測度を上の ボレル測度と呼ぶ.
定義 8.
を位相空間とし, をその上の測度とする. このとき,が位相的有限 であるとは,開集合の可算列 が存在して を満たすときにいう.
定義 9.
を位相空間とし, をその上のボレル測度とする. このときが外部正則であるとは 任意のボレル集合に関して となるときにいう. また 内部正則であるとは が成り立つときにいう. が外部正則かつ外部正則であるとき, 正則という. そしてがコンパクト正則であるとは が成り立つときにいう. またボレル集合が上で述べた条件を満たすときに, 自体をそれぞれ外部正則,内部正則,コンパクト正則と呼ぶ.
注意.
ここでいうコンパクト正則という言葉は通常は内部正則と呼ばれるが,名前がかぶるので独自の用語を導入した.
2 距離空間上の確率測度
この節では距離空間上の確率測度の正則性について紹介する. まず最初に外部正則性と内部正則性を紹介する.
命題 10.
を距離空間上の位相的-有限なボレル測度とする. このとき は正則測度である. つまり, 任意の に対して開集合と閉集合 が存在して と が成り立つ.
証明.
まず最初に が有限測度の場合に命題を証明する. 定理が成り立つような の部分集合全体を と置く. この が と一致することを示す. まず任意の閉集合について, とすると,は開集合であり, でさらに なので十分大きいを取れば である.これはが有限測度であるから可能なことである. つまりはの閉集合を全て含んでいる.
今からが完全加法族であることを示そう.
はがの閉集合を全て含んでいることからわかる.
次にならばが成り立つことを示そう. ならば閉集合と開集合が存在して でとなるが, このとき なので となる. よって, ならば である.
次に の 完全加法性を示そう. とし,閉集合 とを
と
を満たすもの とする. とし, とする. このとき であり, 測度の有限性から が成り立つ. なので,十分大きいを取れば となる. これはが有限測度だから可能なことである. よって であるから 完全加法性が示された.
さてが完全加法族であることと, がの全ての閉集合族を含んでいることから がわかる.
一般にが位相的-有限の場合を考えよう. をの開被覆でを満たすものとする. このとき として上で述べた場合を使うと, ある開集合が存在して となる.これはつまり ということである. そして とおくとこれは開集合である. そして
である. に対して上の議論を適用すると 閉集合 が存在して と を満たす. なので, は局所有限な族なので, は閉集合であり,
である. 以上で定理が示された. ∎
次に完備可分距離空間上の確率測度のコンパクト正則性について述べる.
命題 11.
を完備可分距離空間とする. この時上のボレル確率測度はコンパクト正則である. つまり, 任意のボレル集合と任意の についてコンパクト集合が存在して である.
証明.
閉集合が存在して になる. をの可算稠密集合とする. を中心とする半径の閉球をと書くことにする.また,と定義する. この時,任意のについて
である. なので,
である. よって十分大きいが存在して
が成り立つ.これは有限測度だから可能なことである. そこで
とすると, の完備性からはコンパクトである. また
が成り立つ. 故に
が成り立つ.これで命題は証明された. ∎
3 確率測度からなる空間
この節では,確率測度からなる空間の性質について述べる. 特に弱収束性などに関するものである.
3.1 確率測度の空間
定義 12.
を局所コンパクトハウスドルフ空間とする. このとき上の測度がRMK測度であるとは以下の条件を満たすときにいう
-
(1)
はに値をとるボレル測度である.
-
(2)
の任意のコンパクト集合について
-
(3)
の任意のボレル集合は外部正則である.つまり が成り立つ.ここではの開集合系である.
-
(4)
が開集合もしくはならばは コンパクト正則である.つまり, が成り立つ.ここではのコンパクト集合全体である.
上のRMK測度全体をと書くことにする 上の符号付き測度で二つのRMK測度の差で表されるもの全体をと書くことにする.
定義 13.
を位相空間とする. このとき で上の実連続関数全体の集合を表す・ で上の有界実連続関数全体の集合を表す. また,が距離空間で距離関数を備えているとき, で上の(に関して)一様連続な実関数全体を表す.を明示的に書いていないが,以下では紛れがないので心配は無用である. また,以下ではにはノルムが備わっているとする.
以下の定理はRiesz–Markov–Kakutaniの表現定理の一つの形態である.
定理 14.
をコンパクトハウスドルフ空間とする. このとき
である. より詳しく述べると,に対して 二つのRMK測度とが(差を除いて)一意的に対応して, 任意のに対して
が成り立つ. 特に非負なつまり ならばを満たすような は通常の意味での測度(非負の値しか取らない測度) に対応する.
注意.
一般に位相空間に関して, である.ここで,はの ストーンチェックコンパクト化である. よって,の元は上の RMK測度(の差で表される符号付測度)とみなすことができる.
定義 15.
を位相空間とする. 上のボレル確率測度全体の集合を で表すことにする. 上の注意から, はの部分集合であり,さらに凸集合でもある.
定義 16.
を位相空間とする.このとき とについて と定義する. 特にが二つのRMK測度との差に対応しているのならば, である.
定義 17.
位相空間上のボレル確率測度列が 上のボレル確率測度に弱収束するとは, 任意のについて
が成り立つ時にいう. また,この時と表す. を踏まえると,この測度の弱収束は 上の汎弱位相と同じである. 以下ではにはこの汎弱位相が定義されているものとする.
汎弱位相について以下の有名な定理がある. 証明は適当な関数解析の本を読むと良い.
定理 18 (Banach-Alaoglu).
を実ノルム空間とする.このとき の単位閉球体は汎弱位相についてコンパクトである.
Banach-Alaogluの応用が次である.
命題 19.
をコンパクトハウスドルフ空間とするとき, はコンパクトハウスドルフ空間となる. さらにがコンパクト距離化可能空間ならば, も コンパクト距離化可能空間となる.
証明.
まずは前半を証明しよう. にはノルムが備わっていることに注意しよう. このときと任意の に対して となるから任意のは の単位閉球体に含まれる. よってBanach-Alaogluの定理(定理 18) からがコンパクトであることを示すには が汎弱位相について閉集合であることを示せば良い.
を の閉包の元とする. 今からを示そう. 恒等的にをとる上の関数について,任意のを与えると, が存在して となる. ところで,任意の に対して であり, は任意だったので,結局 となる.
次にが測度として非負の値しか取らないことを示そう. は二つのRMK測度を用いて とかくことができる. ここでとは正則測度であることに注意しよう.これはのコンパクト性とRMK測度の定義から従うとも考えられるし,もしくは命題 10から従うとも考えても良い. ここで背理法のためには負の値もとると仮定しよう. するとボレル集合が存在して となる. つまり である. とおく. との正則性から 閉集合が存在して ,と , となる.ここで改めて とおけば, と と を満たす. するとの定義から
となる.つまりである. とおく. そしてさらにの外部正則性を用いると, 開集合が存在して と を満たす.
ここではコンパクトハウスドルフなので特に正規空間である.よってウリゾーンの補題よりが存在して とと を満たす.さてここで を評価しよう.
つまりである.ここで とおく.はの閉包の元なので, が存在して を満たす.特に である. これから がわかるがなのでこの式はが非負の値をとる測度であるということに矛盾する.よって 背理法からも非負の値をとる測度である.
以上のことから であることがわかる. つまり, はコンパクトハウスドルフ空間である.
命題の後半はがコンパクト距離化可能空間ならば は可分になることと,可分なノルム空間の 双対空間に汎弱位相を入れると距離化可能になるという関数解析の事実から 従う. ∎
3.2 Potmanteauの定理
この節では,測度の弱収束性の同値な言い換えを述べた Portmanteauの定理を紹介する.
補題 20 (Portmanteau theorem).
を距離化可能空間とする.この時以下は同値である.
-
(1)
-
(2)
の位相と同じ位相を生成する距離関数 を任意に固定する.以下でははこの距離関数に関するものとする.このとき
-
(3)
の任意の閉集合について
-
(4)
の任意の開集合について
-
(6)
任意の について ならば.
証明.
[の証明]
条件はの定義よりも弱い条件である.
[の証明終わり]
[の証明]
まず最初に
と定義するとは上の一様連続関数になる. そして閉集合について とすると である. また,のとき,各点収束の意味でであり, である. よって各ごとに
がわかる. よってとすると,ルベーグの収束定理から,
がわかる.条件ではという距離に依存するものが現れているが,他の条件はには依存しない条件であることにとても 注意しよう.
[の証明終わり]
[の証明]
まずを有界連続関数とする.このとき としても一般性を失わない. を固定してに対して と定義する. このとき である. すると,
が成り立つので,ボレル確率測度について
を得る. この不等式の右辺について,とするとから
また,左辺について,とすれば
であるから,
を得るので,とすれば
を得る.を考えるとについても同様の式が得られるので,を得る.
[の証明終わり]
以上で,, , の同値性がわかった.
[の証明]
については,の補集合を考えると同値であることがわかる.
[の証明終わり]
[の証明]
条件 とを用いてを示そう. について, で,なので
かつ
であるからである.
[の証明終わり]
[の証明]
逆にを仮定しよう. このとき閉集合とについて,
と定義する. このとき であり,である. は有限測度なので,となる は高々可算個しかない. よって,となるは稠密に存在するので,このような について,
である. とすると,
がわかる.
[の証明終わり]
以上の場合分けから証明が終わる. ∎
定理 21.
補題 20において, の場合には,次の(6)も同値になる.
-
(6)
の分布関数をで表し, の分布関数をで表す. このときの任意の連続点について が成り立つ.
証明.
[の証明]
まず , であることに注意しよう. がの連続点ならば であることと, なので,(5)より となる.
[の証明終わり]
[の証明]
実数 を任意に与える. そして を任意に与える. をならばとなるものにする.これはなので可能である. をとなる定数とする. このような定数はなので存在する. ところでは単調増加関数なので,その不連続点は高々可算個である.よっての連続点は上で稠密なので,の連続点のみからなる集合が存在して 任意のに対して および となる. 任意のに対して, と定義する. ここで,を
と定義する. が有界なのでも有界で,今考えている測度はどれも確率測度だからは今考えているどの測度についても可積分であることに注意しよう.
まずをかのいずれかとする.このとき
を得る. 次に を評価する. まず,は確率測度なので, 十分大きいを取ると, となる. やはの連続点なので, 条件(6)より十分大きいについて となる. すると
となる.最右辺の第一項に注目しよう. 条件(6)とがの連続点の集合ということから各を満たすに対して となる. よって十分大きいについては
が成り立つ.
今から を評価しよう.
となるから,上での評価を使えば十分大きいについて
となるので,結局 である.よって(2)が成り立つ.
[の証明終わり] ∎
3.3 緊密性とProkhorovの定理
この節では確率測度の空間のコンパクト性と 緊密性の同値性について紹介する.
定義 22 (緊密性).
を距離化可能空間とし, とする. この時 が緊密であるとは,任意の に対して のコンパクト集合 が存在して
を満たす時にいう.
定理 23 (Prokhorov).
を可分完備距離化可能空間とし, とする. このとき以下は同値である.
-
(1)
は相対コンパクトである.
-
(2)
は緊密である.
証明.
[の証明]
緊密ならば相対コンパクトを示そう. に相対コンパクトな距離を入れて,その完備化を とする. はコンパクトであることに注意しよう. を包含写像とする. とする. 命題 19 から はコンパクト距離空間なので, は相対コンパクトである. よって列 が存在して はに弱収束する. さて,は緊密なので, 任意のについて のコンパクト集合が存在して
が成り立つ. はコンパクトなので,もコンパクトであり,特に の閉集合となる. よってとして,
となる. 従ってとおけば であり,かつ である. 上の確率測度を について
とするとこれはボレル確率測度になっている. ここで,について となることを用いた.これは が閉集合から生成されていることと,がコンパクト集合の可算和であることからわかる.
さて,とすると,(主に一様連続性から) の拡張が存在する. そして,
が成り立つ. よって
なので,はに弱収束する.
[の証明終わり]
[の証明]
逆は少し頑張る. をの稠密可算集合とする. このとき任意のについて が成り立つ. ここではを中心とする半径のの開球である. 今から
を示そう.
背理法を使い,この示したい命題が成り立たないとする. すると あると が存在して, 任意のについてあるが存在して
が成り立つ. 各に存在する測度をとする. このときの コンパクト性から, ある列と が存在して ならば
が成り立ち,かつ として良い. すると,なので,補題 20から 任意のについて
となるが,とすると となるので,矛盾する. つまり,任意のと任意のについて あるが存在して 任意のについて
が成り立つ. 各について 整数 を
が成り立つものとしてとる. ここで,
とすると は完備距離化可能空間の全有界な閉集合なので,コンパクトである. 任意のに対して
となるから 緊密性の条件を満たす.
[の証明終わり] ∎
References
- [1] はてなブログ電波通信の記事 「直積測度の構成について:確率論その0」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2022/01/03/011245
- [2] はてなブログ電波通信の記事 「大数の法則について:確率論その1」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2022/01/16/233527
- [3] はてなブログ電波通信の記事 「リース・マルコフ・角谷の表現定理の証明(入射角16.225°の測度論入門2)」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2015/10/28/213025
- [4] はてなブログ電波通信の記事 「Riesz-Markov-Kakutaniの表現定理II」, https://concious4410.hatenablog.com/entry/2020/02/02/213341
- [5] 小谷眞一, 「測度と確率」, 2005 岩波書店.
- [6] 船木直久, 「確率論」, 講座・数学の考え方 20,2004, 朝倉書店.
- [7] K. R. Parthasarathy, Probability measures on metric spaces. Academic Press.
「知識は公共財」