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終結式

ナンブ キトラ
HTML変換日:2026年7月26日

1 終結式の話

この文章では共通因子を持つ多項式と終結式の関係を紹介する. その応用として 固有値が全て相異なる行列が行列の空間の中で稠密開集合になっていることを紹介する.系として対角化可能な行列は行列の空間の中で第二類集合になっていることがわかる.

終結式の話については 参考文献 [1]を大いに参考にした. また [2]には集結式のみならず代数学の色々な事項がたくさん載っている.

補題 1.

𝔽 を体とする. f,gを𝔽上の定数ではない多項式とし, その次数はそれぞれm, nとする. このときfとgが定数ではない共通因子を持つための必要十分条件は 多項式u,v∈𝔽⁢[x]が存在して以下の三つの条件を満たすことである.

  1. 1.

    uとvは共に0ではない.

  2. 2.

    deg⁡(u)≤n−1 かつdeg⁡(v)≤m−1 である.

  3. 3.

    u⁢(x)⁢f⁢(x)+v⁢(x)⁢g⁢(x)=0が成り立つ.

証明.

まずfとgが定数ではない共通因子を持つと仮定する. つまりある定数ではない多項式a,b,h∈𝔽⁢[x]が 存在してf⁢(x)=a⁢(x)⁢h⁢(x)とg⁢(x)=b⁢(x)⁢h⁢(x) を満たす.このときhは定数ではないので少なくともその次数は1より大きいことに注意しよう. するとdeg⁡(u)≤m−1かつdeg⁡(v)≤n−1 であり,aとbは0ではない. よってv=aでu=−bと置くと

u⁢(x)⁢f⁢(x)+v⁢(x)⁢g⁢(x)=b⁢(x)⁢a⁢(x)⁢h⁢(x)−a⁢(x)⁢b⁢(x)⁢h⁢(x)=0

となるのでこのu, vは補題の条件を満たす.

今度は逆に補題の条件にあるような多項式 u,v∈𝔽⁢[x]が存在すると仮定する. このとき

u⁢(x)⁢f⁢(x)=−v⁢(x)⁢g⁢(x)

となる. もしもgの素因子が全て fを割り切らないとすると全てuを割り切ることになり, つまりgはuの因子になる. しかしdeg⁡(u)≤n−1なのでこれはあり得ない. よってfとgは共通因子を持つ. ∎

定義 2.

f,g∈𝔽⁢[x]をそれぞれ定数ではない多項式とし その次数はそれぞれm, nとする. そして

(1) f⁢(x) =am⁢xm+⋯+a1⁢x+a0
(2) g⁢(x) =bn⁢xn+⋯+b1⁢x+b0

と表示されているとする. このときfとgのシルベスター行列 Syl⁢(f,g)とは 以下で定義されるm+n次の正方行列である.

Syl⁢(f,g)=(ambnam−1ambn−1bnam−2am−1⋱bn−2bn−1⋱⋮⋮⋱am⋮⋮⋱bn⋮⋮am−1⋮⋮bn−1a0a1⋮b0b1⋮a0⋱⋮b0⋱⋮⋱a1⋱b1a0b0)

またfとgの終結式 Res⁢(f,g) とは Syl⁢(f,g)の行列式のことである. つまり

Res⁢(f,g)=|ambnam−1ambn−1bnam−2am−1⋱bn−2bn−1⋱⋮⋮⋱am⋮⋮⋱bn⋮⋮am−1⋮⋮bn−1a0a1⋮b0b1⋮a0⋱⋮b0⋱⋮⋱a1⋱b1a0b0|

である. 同じことだが

Res⁢(f,g)=|amam−1am−2……a1a0amam−1am−2……a1a0⋱⋱⋱⋱amam−1……a1a0bnbn−1bn−2……b1b0bnbn−1bn−2……b1b0⋱⋱⋱⋱bnbn−1……b1b0|

でもある.

fを2次以上の多項式とするとき, fとfの微分f′ の終結式 Res⁢(f,f′) のことを判別式と呼ぶ.

命題 3.

𝔽 を体とする. f,gを𝔽上の定数ではない多項式とし, その次数はそれぞれm, nとする. このときfとgが定数ではない共通因子を持つための必要十分条件は Res⁢(f,g)=0である.

証明.
(3) f⁢(x) =am⁢xm+⋯+a1⁢x+a0
(4) g⁢(x) =bn⁢xn+⋯+b1⁢x+b0

と表示されているとする.

まず最初にfとgが共通因子を持っているとする. このとき補題 1よりdeg⁡(u)≤n−1とdeg⁡(v)≤m−1 となる多項式で u⁢(x)⁢f⁢(x)+v⁢(x)⁢g⁢(x)=0 となるものが存在する. ここで

(5) u⁢(x) =rn−1⁢xn−1+⋯+r1⁢x+r0
(6) v⁢(x) =lm−1⁢xm−1+⋯+l1⁢x+l0

と表す.ここでrm−1=0の場合も含んでいることに注意しよう. u⁢(x)⁢f⁢(x)+v⁢(x)⁢g⁢(x)=0の係数を考えると xkの係数は

∑i+j=kai⁢rj+∑i+j=kbi⁢lj=0

である. これを連立方程式と見ると

(ambnam−1ambn−1bnam−2am−1⋱bn−2bn−1⋱⋮⋮⋱am⋮⋮⋱bn⋮⋮am−1⋮⋮bn−1a0a1⋮b0b1⋮a0⋱⋮b0⋱⋮⋱a1⋱b1a0b0)⁢(rn−1rn−2⋮⋮r0lm−1lm−2⋮⋮l0)=0

となる. ベクトル

(rn−1rn−2⋮⋮r0lm−1lm−2⋮⋮l0)

はゼロベクトルではないので,行列Syl⁢(f,g) の固有値0に対応する固有ベクトル になっている.特にSyl⁢(f,g) は固有値0を持つのでその行列式は0になる. つまり Res⁢(f,g)=0である.

逆にRes⁢(f,g)=0だとすると 固有値0に対応する固有ベクトルを

(rn−1rn−2⋮⋮r0lm−1lm−2⋮⋮l0)

としてここから逆に多項式u, vを定義してやると u⁢(x)⁢f⁢(x)+v⁢(x)⁢g⁢(x)=0となる. ここで,u, vのいずれかは0ではないが, 式u⁢(x)⁢f⁢(x)+v⁢(x)⁢g⁢(x)=0から他方も0ではないことがわかる. この式が成り立つので補題 1からfとg は共通因子を持つことがわかる. ∎

系 4.

𝔽 を代数閉体とする. f,gを𝔽上の定数ではない多項式とし, その次数はそれぞれm, nとする. このときfとgが 共通の根を持つための必要十分条件は Res⁢(f,g)=0である.

系 5.

𝔽 を代数閉体とする. fを𝔽上の2次以上の多項式とし, その次数はそれぞれm, nとする. このときfが 重根を持つための必要十分条件は Res⁢(f,f′)=0である.

2 応用

終結式の応用として 互いに異なる固有値を持つ複素行列全体が 複素行列の空間の中で稠密開集合になることを示す.

定義 6.

𝔽を体とする. このときM⁢(n;𝔽) を成分が𝔽に入っているn次正方行列の 全体とする.もしも𝔽 に位相が入っているならM⁢(n,𝔽)と𝔽n×n は自然に同一視できるのでM⁢(n,𝔽) に位相を導入することができる.

次の補題の証明は,例えば 参考文献 [3]などを参照せよ. もしくはただ単に多変数の解析関数の一致の定理からももちろん従う.

定理 7 (多項式に関する一致の定理).

pをn変数の実係数多項式とする. もしもpの零点全体の集合Zが内点を持つならば pは恒等的に0となる. つまりpが定数0に等しくないならば p⁢(x)≠0となるx∈ℝn全体の集合はℝn のなかで稠密になる.

定理 8.

DをM⁢(n,ℂ) の元で互いに異なる固有値を持つもの全体とする. このときDはM⁢(n,ℂ)の 稠密開集合である.

証明.

行列がDに属することはその行列の 固有多項式が重根を持たないことと同値であることに注意しよう. AをM⁢(n,ℂ)の元としたときにその固有多項式fAを

fA⁢(x)=xn+αn−1⁢(A)⁢xn−1+⋯+α0⁢(A)

と表すと,各αiは特定の行列に依存しない, Aの成分を変数とする(n×n変数の)(普遍的な)多項式となる. そして判別式Res⁢(fA,fA′) はfAの係数の多項式になるので, 結局Res⁢(fA,fA′)はAの成分を変数とする多項式になる. ところで0ではない多項式の0点は内点を持たない閉集合になるので (定理 7), Res⁢(fA,fA′)≠0 となるA全体はM⁢(n,ℂ)の中で 稠密開集合となる. Res⁢(fA,fA′)≠0 であることとAの固有値が互いに異なるということは同値なので,結局DがM⁢(n,ℂ)の中で稠密開集合となっていることがわかる. これで証明が終わる. ∎

系 9.

Eを M⁢(n,ℂ)の元で対角化可能なもの全体とすると, EはM⁢(n,ℂ)の中で 第二類集合となる.

注意.

実係数の行列については異なる固有値を持つものが稠密であるとは限らない.実際,M⁢(2,ℝ)において,その固有値が実数ではない複素数であるもの全体は内点を持つ. なぜなら実係数多項式の 二次方程式の判別式が負であることと実数ではない複素数解を持つことは同値だからである.

References

  • [1] H. Wppdy, Polinomial Resultants,
    http://buzzard.ups.edu/courses/2016spring/projects
    /woody-resultants-ups-434-2016.pdf
     
    
  • [2] S. Lang, Algebra, GTM, Vol. 211, Springer, 2012.
  • [3] はてなブログ「電波通信」の記事 「多項式に関する一致の定理」,
    https://concious4410.hatenablog.com/entry/2022/03/12/160928