実解析関数入門および 実解析関数に対する逆関数定理
この文章では, 多変数実解析関数の基礎を紹介し, そのあと実解析関数に対する逆関数定理を証明する. 微分可能性が低めの場合や,滑らかな関数の場合と同様に 逆関数定理が証明されれば陰関数定理も導くことができる. 参考文献を大いに参考にして, 足りない部分を適宜補った.
1 準備
1.1 多重指数記法
この文章では
と定義する。 各に対して、その成分をとしたとき
と定義し、
と定義する。この文章では偏微分の順序を気にしない関数しか出てこないので、の定義に出てくる偏微分の順序は我々も気にしないことにする。 また、
と定義し、 に対して
と定義する。
また
と定義する. ただしとする.
に対して
と定め、
とする。のとき、その二項係数を
と定義する。 簡単にわかることだが、となる。 また、のとき、
と定義する。このときちゃんととなる。
補助的にに対して
と定義する。もちろんである。 多変数の場合のライプニッツ則は多重指数記号を用いると1変数の場合と同じように述べることができる。
補題 1.
をの開集合とする。 二つの級関数とについて
が成り立つ。
1.2 基本的な微分積分の定理
ご存知だとは思うが,平均値の定理の応用として得られるテイラーの定理 は微分可能な関数を多項式と同様に扱えるようにする重要な道具立ての一つであり, もちろん解析的関数と重要な関わりを持つ.
定理 2.
で をの開区間とし とする. を を含む開集合上で階微分可能な 関数とする.このとき が存在して
を満たす.
多変数の解析的関数を扱うときには 多変数のテイラーの定理が重用される.
定理 3.
で を上の開集合とし, とする. は上の級関数とする. とを結ぶ直線がの含まれているとき この直線上の点が存在して以下を満たす.
1.3 総和について
補題 4.
2 解析関数への入門
定義 5.
とする. 実数列を 上の関数とみなして数え上げ測度で積分した値を
と定義する. この値が有限の値に収束する場合にはこの級数は収束するといい, 正や負の無限大の値になる場合には発散するという. この値が定義できない場合は定義できないという. 数え上げ測度の定義から この級数が収束する場合には常に絶対収束する.つまり
が有限の値に収束する. また積分の定義から級数が定義できる場合には話をとる順番に依らず同じ値に収束(発散)する.例えば
が成り立つしフビニトネリの定理から
が成り立つ.
定義 6.
とし, をの開集合とする. 上の実数値関数 が上解析的であるとは, の任意の点に対しての近傍 と実数列が存在して 任意のに対して
と表されるときにいう. この定義は 級数 が有限の値に収束することを含んでいることに注意せよ.
補題 7.
とする. このときを満たす について
が成り立つ. 特に はで解析的である.
積分と総和の可換性から次がわかる.
命題 8.
とする. をで添字つけられた非負実数列とし, を上の非負関数の列とし,各について は総和可能とし, とする. このとき
が成り立つ.
命題 9.
を解析的関数で定義域内の点の近傍で
と展開されているとすると の十分小さい近傍上で 級数 はに一様収束する.
証明.
の十分小さい近傍上で が収束することとテストからわかる. ∎
命題 10.
を解析的関数で定義域内の点の近傍で
と展開されているとすると 定数 が存在して任意の
がなりたつ.
証明.
をとり であるとする. とし, とする. すると,
なので命題が成り立つ. ∎
ルベーグの優収束定理から次の連続性と微分可能性がわかる.
命題 11.
を解析的関数とすると, 定義域内の各点で連続である.
命題 12.
を解析的関数とすると, 任意のに関して は解析的である.
証明.
各についてが解析的であることが示されれば帰納的に命題が導かれる. として証明しても構わない.
故に 微分と積分の交換定理から わかる. ∎
系 13.
を関数としその定義域内の点の近傍で
と展開されているとすると 任意の について
が成り立つ.
命題 14 (一致の定理).
としてをの連結開集合とする. 上で定義された解析関数とする. このときが内点を持つならば は恒等的にである.
証明.
と定義すると仮定から である.また解析関数の連続性から は閉集合である. 今からが開集合であることを示そう. 任意にを取ると, 先の系からの十分小さい近傍上で
と表される.なのでだから を得る.よっては開集合である. 今は連結集合でありはその空ではない開かつ閉な部分集合であるからとなる. つまりは上で恒等的にとなる. ∎
補題 15.
とし, は を満たすとする.このとき
が成り立つ.
証明.
なのでのとき示せば補題は証明される. まず二項定理より
であり,と等比数列の総和公式より
であるこれを整理すれば
となるので定理が示された. ∎
命題 16.
を関数としその定義域内の点の近傍で
と展開されているとすると 任意の について は解析的である.
証明.
と仮定しても良い. 各 で
とおいて の十分近くで
が収束し,なおかつ に一致することを示す. まずは収束性から示す. の各成分を小さく取り, で でなおかつ となるようにする. そして を十分小さく取り,
についてであり, が成り立つようにする. そして が開集合であり,を含むことから を小さく取り直して任意のについて が成り立つようにする.
今について
である. そして なので
が収束するから,ある定数が存在し,任意の について
である.
と置くと であり, 各とについて
が成り立つ. ここで,
は総和可能なので,テストから となるについて
が収束することがわかった. さらに多変数のテイラーの定理から に対してとを結ぶ直線上の点 が存在して
が成り立つ.ここで
なので,に注意すると
ここで,なので であるよって
となり のとき
はに収束するので, 結局 である. ∎
解析関数の合成は解析関数になることを証明する.
命題 17.
とし, をそれぞれ の空でない開集合とする. を上の解析関数とし, を上の解析関数とする. 点について が成り立つとする. このとき 点の近傍で が定義されるが,この関数は点 において解析的である.
証明.
を変数の任意の形式的冪級数とし, とする. を任意の個の変数 形式的冪級数としとする. このとき のの係数を調べることをする.
と表示して, に対して
と置く. この時 が形式的冪級数であることがわかる. さらに の時 の係数は の次までの係数を使って定義され, かつの時 と のの係数は同じ値である. このことから の の係数はwell-definedであり, これも形式的冪級数であることがわかる. さて に対して 多項式 をゼロ多項式として定義する. そして 任意のに対して
のの係数を とおく. ならばであるし, 有限個のをのぞいて となる. 二項係数は全て非負実数であるから, 任意の と に対して はと の多項式でなおかつその係数は との取り方に依存しない 普遍的な非負整数である. よって が単調であることがわかる. つまり 実数 , , , が と を満たすならば
を満たす. また, のの係数を とおくとこれも の多項式で その係数は の選び方によらない普遍的な非負整数である. よって単調性をもつ. さらに 任意のに対して
が成り立つ.ここで右辺は実は有限和である. 以上の準備のもと命題を証明する.
でで各についてであり,でなおかつ と仮定しても良い. の十分小さい近傍では
と展開される. そして上の関数を
と定義する.
さて の十分小さい近傍上で 各 について
と展開される.ここで仮定よりであることに注意せよ. またが存在して 任意のに対して
が成り立つ. 適当に変数変換をして,
が成り立つとしても良い.
上の関数として
と定義する.
上で関数を
と定義し,
と置く. そして
と置く.この時 を係数にもつ冪級数が原点で解析的であることを示す. まずとの定義から任意の に対して として
となり,
であるから の時 は総和可能である. さて で とおく. すると
と
が成り立つ.
原点の十分小さい近傍で が に一様収束することと, の原点の十分小さい近傍で が に一様収束することから を十分小さく取り であり 任意のに対して が存在して がならば任意のに対して
であるようにできる.
そして
であり, は総和可能であるから, を小さく取り直して 任意のに対して が存在して となると任意の に対して
が成り立つ. よって に対して
なので,
は原点で解析的であることがわかる. ∎
2.1 解析関数の局所的振る舞い
定義 18.
とし, をの開集合とする. 上の実数値関数 が条件を満たすとは 任意のに対しての近傍が存在して あるとが存在して任意のと に対して
が成り立つときにいう.
以下では解析性と条件(A)が成り立つことが同値であることの証明を目標にして話を進めていく.
補題 19.
でとする. このとき
が成り立つ.
証明.
公式
と 帰納法によって証明する. と定義すると,
と直和分解できる. とと置くことにする. ここで,
であり,さらに
である.ここで,と集合に対して
である. 今ここで,の値に関する帰納法を用いると, であり であるから
である. ∎
補題 20.
はで条件を満たす.つまり, とする. このときと が存在して 任意のと任意のに対して
を満たす.
証明.
を任意にとる. そして とする. このとき
そして
なので
である. ∎
定理 21.
とし, をの開集合とする. 上の実数値関数 が上解析的であるための必要十分条件は 任意のに対しての近傍が存在して あるとが存在して任意のと に対して
が成り立つことである.
証明.
まず最初にが解析的であるとする. に対してが存在してを中心とする半径の閉球上でを中心としてを冪級数展開ができる. つまり任意のについて
である.はコンパクトなので
は上収束しさらに連続である.よってある が存在して
となる.任意のに対してとすると
となることがわかる. 特に
である.
さてとし,を十分小さく取り,となるようにする. 任意のに対して
であるから任意のに対して
が成り立つ. よって
となる.ここで なので,補題20より
となる. 結局に対して
が成り立つことがわかる.これで前半の証明が終わる.
逆に主張の後半の条件が成り立っているとする. このとき任意にをとり,を十分小さく取り が存在してを見たし,さらに の任意の点について
が成り立つと仮定しても良い. 今ここで,級数 が絶対収束することを証明しよう.任意のについて
が成り立ち,
は収束するのでくだんの冪級数が上で絶対収束することがわかる. このとき任意のについてテイラーの定理より が存在して
が成り立つ. よって仮定よりこの剰余項について
が成り立ち,のとき なので
が成り立つ. よって上では冪級数展開可能であり, は任意であったから定理が成り立つ. ∎
3 特殊な準線形一階偏微分方程式の解法
をの開区間とし, を級関数の族とする. をの領域とし, を未知関数とする準線形一階偏微分方程式
| (1) |
の解放を考察する. 一般に準線形といった場合にははのみならずに依存している場合を含む.
命題 22.
4 さらに特殊な方程式
命題 23.
に対して とおく. さらに で このとき変数 の実数値関数に関する 初期値問題
| (4) |
は原点の近傍で定義された解析関数の解を持つ. ここで,番目の変数をと表している.
証明.
とし,とおくと,先の命題の条件を満たす. さて,も初期値問題を満たすように選ばなければならない. 今の場合にはに対して
とならなければならない. つまり
である. このようなとして
を今回は用いる. このとき
をについてといて,初期値の条件を満たす関数を見出す. この式を変形すると
である. よっての原点の十分小さい近傍を十分小さく取って任意の についてと
となるようにすると の候補は二次方程式の解の公式から
である.この式でとすると
であり,平方根の中身を整理すると
となる.ここでの取り方から任意のについて が成り立つので,
が成り立つから 上でを
と定義すればは原点の近傍で定義された 偏微分方程式(5)の解である 今からこのが解析的であることを確かめよう. まず分母にあるは解析的であるから 結局平方根の部分が解析的であることを示せば良い. 平方根の中身は解析的であり,解析関数の合成が解析的であること, 平方関数がで解析的であることを踏まえると, 結局上で定義したが解析的であることがわかる. ∎
5 Cauchy–Kovalevkayaの定理の特殊な場合
命題 24.
とし, は を満たすで変数の解析的な関数とし は で解析的な変数関数とする. このとき準線形一階連立偏微分方程式の初期値問題
を考えると,原点の近傍が存在し, 上で定義された解析的関数がこの連立方程式の解であり 上での滑らかな解はただ一つしか存在しない.
証明.
が冪級数展開できるとして その係数を と から計算することを考えると, 普遍的な非負整数を係数にもつ多項式が存在して, の係数はその多項式に と を代入することで得られる. 解の唯一性はこのことから従う. よって とを それぞれの優関数に置き換えて 考えている方程式 の解が存在することがわかればその解 は元の方程式の優関数になるので 元の方程式の解が確かに存在することがわかる. を適当に選べば, に対して と定義して
で定義される関数は原点の近傍で の優関数になっており, に対して と定義して
とするとこれはの優関数になっている. よって として 初期値問題
| (5) |
の解が存在すれば 証明が終わるが, これの解析解が原点に存在することは既に証明しているので 証明が終わる.
∎
次に項が付け加わった場合の解について考えよう.
命題 25.
とし, は を満たすで変数の解析的な関数とし とは で解析的な変数関数とする. このとき準線形一階連立偏微分方程式の初期値問題
を考えると,原点の近傍が存在し, 上で定義された解析的関数がこの連立方程式の解であり 上での滑らかな解はただ一つしか存在しない.
証明.
の変数を一つ増やして とする.番目の変数がで,番目がとする. このとき をの時
での時
とし,以上で述べた場合以外では恒等的にと定義する.
さらにをに対して
で
と定義する. このとき準線形一階連立偏微分方程式の初期値問題
を考えると,原点の近傍が存在し, 上で定義された解析的関数がこの連立方程式の解であり 上での滑らかな解はただ一つしか存在しない. ここでと考えていることに注意せよ. ここでは
で
なので である. これを用いて方程式を書き直すと
なので
である. よって と定義すればは
を満たす. (実際ははに依存しない.) ∎
6 解析的逆関数定理
まず最初に一変数の場合の逆関数定理を証明する. そのために次の特殊な場合の陰関数定理を証明する.
命題 26.
をの開区間とし, とする.そして を上の解析関数とし, で を満たすとする. そして に対して を
と定義する. このときの近傍 が存在し,上で定義された 解析関数が存在して 任意のについて を満たす.
証明.
を一変数の形式的冪級数で
とする. このときを任意に固定した場合に 形式的冪級数を
を満たすように係数を定義したい.そのためには
を満たすように を定義すれば良い. 両辺を比較すると であり,任意のについて はとと の多項式であり, その係数はやの取り方に依存しない 普遍的な非負整数である. ここで,各 は帰納的にと の多項式で その係数は普遍的な非負整数であることがわかるので, 結局もそうである. つまり,任意のについて ある普遍的な非負整数係数の多項式が存在して
となる. 非負整数を係数にもつので を満たすならば
が成り立つ. この多項式を用いて定理を証明しよう.
適当に変数変換をして とする. そしては原点の近くで
と展開されているとする. このとき が存在して任意のについて
が成り立つ. よって目的の を構成するためには が原点の近くで収束することを示せば良いが,
なので,
に対して となる原点の近くで定義された解析関数を 構成できればテストから 定理が証明される.
なのでは
のに関する解であるが, 二次方程式の解の公式から を満たす原点の近くで定義された解析関数 が存在することがわかるので, 命題は証明された.
∎
上の命題を使うと一変数に関する解析的逆関数定理がわかる.
系 27.
をの開区間とし, とする. そして を上の解析関数とし, を満たすとする. このときの近傍が存在し,で定義された 解析的関数 が存在し, でなおかつ任意のについて
を満たす.
多変数の逆関数定理を証明するために 次の補題を証明する.
補題 28.
で変数の解析的陰関数定理が成り立つと仮定する. そして の原点の近傍で定義された解析関数 は をみたし, であり, を満たすとする. このとき の原点の近傍で定義された関数が存在し, 任意のについて
を満たす.
証明.
と表示されているとする. 適当に次可逆行列をかけて を新たにとすることによって, の時 で としてもよい. そして の原点の近傍上で 関数を
と定義する. すると のにおけるヤコビアンは でない. 解析的逆関数定理に関する仮定より の近傍で定義された解析的関数で あっての逆関数になっているものが存在する. 通常の 関数に関する逆関数定理から の近傍で定義された 関数で の逆関数になるものが存在する. と成分表示する. との定義との定義より, 任意のに対して
が成り立つ. そして合成関数の微分公式から, の定義域内の点について
多項式の比で書かれる関数が存在して
を満たす. は ヤコビ行列の逆行列の成分である. よってたちは準線形連立一階偏微分方程式
を満たすので Cauchy–Kovalevskayaの定理の特殊な場合である 命題25から, たちは原点の近傍で冪級数展開可能であることがわかり 定理が証明される. ∎
この補題を使って 多変数の逆関数定理を証明しよう.
定理 29.
をの開区間とし, とする. そして を上の解析関数とし, を満たすとする. このときの近傍が存在し,で定義された 解析的関数 が存在し, でなおかつはの逆関数である.
証明.
で と仮定しても良い. と表示されているとする. 適当に次可逆行列をかけて を新たにとすることによって, の時 で としてもよい. そして の原点の近傍上で 関数を
と定義する. すると のにおけるヤコビアンは でない. 解析的逆関数定理に関する仮定より の近傍で定義された解析的関数で あっての逆関数になっているものが存在する. ここでの近傍で定義された関数 を
とする. この時の定義域をとすると の定義から を満たす. そして と を満たすについて
である. さらにとなるについて
であり,
なので である. 変数の陰関数定理が成り立っているという帰納法の仮定と 先の補題から の解析的逆関数が存在しの近傍で定義されている. 今ここで,
と定義するとこれが求める解析的逆関数になっている. ∎
逆関数定理から 陰関数定理を導くのは 結構簡単であるので証明は省略する.
定理 30.
とし をそれぞれと の開集合とする. そして を解析関数とし, は を満たすとする.
とする. この時の近傍で定義された解析関数が存在し を満たしなおかつ定義域内の任意の点について を満たす.
注意.
以上で述べた定理は 複素係数でも正しい.
References
- [1] クーラン ヒルベルト
- [2] G. B. Folland, Introduction to partial differential equations, Princeton Univ. Press, 1995.
- [3] X. Kang, X. Xu, and D. Zhang, The Morse criticality revisited and some new applications to the Morse–Sard theorem, Manuscripta Math. 161 (2020), 467–485.
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- [5] S. G. Krantz, and H. R. Parks, The implicit function theorem: history, theory, and applications, Birkhäuser Boston, 2002
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