バナッハ空間の関数空間への埋め込みと,関数空間の可分距離空間に対する普遍性
この文章では,まず最初に任意の実バナッハ空間がコンパクト空間上の実連続関数の空間に等長に埋め込めることを示す.次に任意の可分距離空間を等長的に埋め込めるような関数空間を調べる.この文章では実係数の線形空間しか扱わないので,バナッハ空間と言ったら全て実係数である.
1 バナッハ空間の関数空間への埋め込み
一般にバナッハ空間に対してでその双対空間を表す. また, とに対して と定義する. そして上のノルムは
と定義する.
一般にバナッハ空間のノルムは単にと書くが,区別の必要があるときにはと書く.
以下の定理はHahn–Banachの定理の系の一つである.Hahn–Banachの定理については例えば[1]を 参照のこと.
定理 1 (Hahn–Banach).
を次元線形空間でないバナッハ空間とし,とする. このとき,で, で となるものが存在する.
系 2.
任意のバナッハ空間と任意のについて
が成り立つ.
をバナッハ空間とする.とする. に対してとして写像を定義し,写像の族 で添字付けられた写像族の元の全てを連続にする上の位相のことを 上の汎弱位相と呼ぶ. 上の汎弱位相は上の汎弱位相をに制限した位相に等しい. また,上の汎弱位相はハウスドルフ位相である. 以下では,に汎弱位相を入れた空間を,と書くことにする.
次の有名な定理の証明は,例えば[1]を参照されたい.
定理 3 (Banach–Alaoglu).
をバナッハ空間とする.このとき汎弱位相を持つ空間 はコンパクト空間である.
以上のBanach–Alaogluの定理を使って,バナッハ空間を関数空間に埋め込む.その前に関数空間を定義する.
定義 4.
空でない位相空間に対してでからへの有界実連続関数全体を表すことにする. そしてに対して,
で上のノルム を定義する. このノルムを単にと省略したりする. このときはバナッハ空間になる.
同様にで上の実連続関数 全体の集合とし,上と同様にノルムを導入する.このときノルムはの値を一般にとりうる.
がコンパクト空間の場合には となることに注意せよ.
以下の定理がこのセクションの主定理である.
定理 5.
任意のバナッハ空間に対して, を任意のに対して, で定義する. このとき,は線形等長写像である. よって,特に任意のバナッハ空間はコンパクトハウスドルフ空間上の 関数空間に等長埋め込むことができる.
証明.
任意のについてが上の連続関数であることは, 汎弱位相の定義そのものから従う. の線形性は明らかである. 等長性を示そう. 任意のについて,
を示せば良い.
系2より,
なので,証明は終わる. ∎
2 関数空間の可分距離空間に対する普遍性
2.1 普遍性の定理
このセクションでは,任意の可分距離空間を等長に埋め込むことができるような関数空間を調べる.
二つの空でない位相空間, と連続写像に対して, をで定義する. このとき以下が成り立つ.
命題 6.
二つの空でない位相空間, と連続写像に対して, が全射ならば,はノルムを保つ.つまり 任意のについて,
となる.ここで,ノルムにはの値も許されていることに注意しよう.
証明.
任意のについて,の全射性から
なので,証明が終わる. ∎
空でない距離空間に対して,をその距離とし,を固定点とする.このときに対して を
と定義することによって 写像 を定義する.このとき は等長埋め込みになっている. この埋め込み写像をクラトフスキー埋め込みと呼ぶ.
補題 7.
可分距離空間に対して, 可分バナッハ空間が存在して, からへの等長埋め込みが存在する.
証明.
をクラトフスキー埋め込みとする. このときによって生成されるの部分空間の完備化が求める可分バナッハ空間になる. ∎
定義 8.
距離空間が 可分距離空間に対して普遍的 であるとは,任意の可分距離空間 に対して,からへの等長埋め込みが存在するときにいう.
定義 9.
位相空間がパラメトライジングであるとは, 任意の可分バナッハ空間と汎弱位相を持つ双対空間の単位球 に対して,からに対して全射連続写像が存在するときにいう. この用語はこの文章でしか使わないので注意されたい.
以下の定理がこの文書の中心的な定理である.証明は[7, Theorem 3.6]の証明を大いに参考にした.
定理 10.
をパラメトライジングな位相空間とする. このとき,は可分距離空間に対して普遍的である.
2.2 普遍性を持つ関数空間を持つ空間
このサブセクションでは可分距離空間に対して普遍性を持つ距離空間の例を挙げていく.最初にパラメトライジングなもの,後にそうでないものを挙げる.
以下の定理は基本的なものである.
補題 11.
を可分バナッハ空間として汎弱位相を持つ空間はコンパクトで,距離化可能空間であり, 弧状連結で,かつの任意の空でない開集合も弧状連結である.
以下の定理は結構有名である.証明は例えば [8, Theorem 4.18]を参照のこと.
定理 12.
をカントール集合とする. このとき, 任意の空でないコンパクト距離化可能空間 に対して全射連続写像が存在する. 特に はパラメトライジングである.
以下の定理の証明は,例えば[2]を参照のこと.
定理 13 (Hahn–Mazurkiewicz).
空でない位相空間 は以下を満たすとする.
-
(1)
はコンパクトな距離化可能空間
-
(2)
は連結
-
(3)
は局所連結,つまり,連結開集合からなる開基が存在する.
このとき,全射連続写像 が存在する. 特にはパラメトライジングである.
距離化可能空間が絶対レトラクトであるとは, が他の距離空間に閉集合として位相的に埋め込まれているならば, 連続写像が存在して,を満たす.ここで,とみなしている.
次の定理は単位閉区間の可算直積空間の特徴付け定理の一つである.空間はヒルベルトキューブと呼ばれる. 以下の定理は[9]によってフレシェ空間の場合に原型が示され, によって以下に述べる形になった.
定理 14 (Keller-Dobrowolski–Toruńczyk).
を位相線形空間の凸集合とする. もし,は無限大の位相次元を持ち,コンパクトで距離化可能空間であって,絶対レトラクトならば, はに同相 である.
距離空間が絶対レトラクトかどうかを証明するには拡張定理がとても役に立つ. 次の定理はDugundjiの拡張定理と呼ばれている.証明はこのブログでも紹介している [3].また原論文[6] を参照のこと. 局所凸空間の定義は[1]などを参照のこと.大雑把に局所凸位相線形空間のことを説明すると,セミノルムの族によって位相が生成されている位相線形空間が局所凸空間である.
定理 15 (Dugundji).
距離空間の閉集合と局所凸型線形位相空間の凸集合及び連続写像について、連続写像が存在し、
を充たす。
これを用いると次のことがわかる.
命題 16.
任意の無限次元可分バナッハ空間について,は絶対レトラクトである. 特にはヒルベルトキューブに同相である.
証明.
有限次元バナッハ空間については有限次元閉球に同相で,この空間は からの全射連続写像が存在するので,以下を得る.
系 17.
ヒルベルトキューブはパラメトライジングである.
以上であげた三つの空間がパラメトライジングであることは以下のようにまとめることができる.
系 18.
バナッハ空間 ,そしては可分距離空間に対して普遍的である.
注意.
とが可分距離空間に対して普遍性を持つことは, [4]で最初に示された.
一般に距離空間がパラメトライジングでなくとも,その上の関数空間は可分距離空間に対して普遍的であり得る. 無限次元可分バナッハ空間については非可算集合なので, 可算空間はパラメトライジングではないことに注意しよう.
命題 19.
有理数の空間について, は可分距離空間に対して 普遍性を持つ.
証明.
順序を保つ位相的埋め込み でがのなかで稠密になるものを考える. 任意の可分距離空間と 等長埋め込み をとる. このとき, 写像 を と定義する. すると,が の中で稠密であることから, が等長埋め込みであることがわかる. ∎
命題 20.
は可算離散空間とする. このとき, は可分距離空間に対して普遍的である.
証明.
空間について
と仮定しても良い.
任意の可分距離空間と 等長埋め込み をとる. このとき, 写像 を
と定義する. このとき, はの中で稠密であることから, は等長埋め込みになっている. ∎
カントール集合上の関数空間 が可分距離空間に対して普遍的であるということからより広いクラスの空間に対して同様の性質が言える.
以下の定理はDugundjiの拡張定理の証明法を詳細に見るとわかることである.[6, Theorem 5.1]を参照のこと.
命題 21.
を空でない距離化可能空間とし,をその空でない閉集合とする. このとき, 等長な線形写像
が存在し,任意のに対して を満たす.
命題 22.
を非可算可分完備距離化可能空間とする. このとき, は可分距離空間に対して普遍的である.
証明.
注意.
は可分距離空間に対して普遍的でない. 特に, は に等長的に埋め込めない. これは[10, Lemma 5]を参照のこと.
References
- [1] 宮島静雄, 関数解析, 横浜図書, 2005年.
-
[2]
yamyamtop, 全射な曲線と単射な曲線,
https://yamyamtopo.files.wordpress.com/2019/08/hahn-mazurkiewicz.pdf, 2020年9月閲覧. - [3] 電波通信(ナンブキトラ), ダガンディーとハウスドルフの拡張定理, http://concious4410.hatenablog.com/entry/2017/01/18/185814
- [4] S. Banach, Théorie des Óperations Linéaires, Chelsea Publishing Co., New York, 1955.
- [5] T. Dobrowolski and H. Truńczyk, On metric linear space homeomorphic to and compact convex sets homeomorphic to , Bull. Acad. Polon. Sci. Sér. Sci. Math. 27 (1979), 883–887.
- [6] J. Dugundji, An extension of Tietze’s theorem, Paciffic J. Math. vol. 1 (1951), 105–125.
- [7] J. Heinonen, Geometrical embedding of metric spaces, Report, University of Jyväskylä Department of Mathematics and Statics, vol. 90. 2003. http://www.math.jyu.fi/tukimas/ber.html.
- [8] A. S. Kechris, Classical Descriptive Set Theory, Springer-Verlag, GTM 156 (1995).
- [9] O. H. Keller, Die homoiomorphie der kompakten konvexen mengen in Hirbertscen Raum, Math. Ann. 105 (1931), 748–758.
- [10] R. Villa, Isometric embedding into space of continuous functions, Studia Math. 129 (3) (1998), 197–205.