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ホイットニーの拡張定理

電波通信
HTML変換日:2026年7月26日

この文章ではWhitneyの拡張定理を紹介する。 この定理はユークリッド空間の閉集合の上で定義された(Whitneyの意味での)微分可能関数が実は ユークリッド空間の通常の意味での微分可能関数の制限であるということを述べている定理である。 Whitneyの微分可能性はテイラーの定理をアナローグして得られる自然な閉集合上の微分概念である。 その意味で微分可能性を閉集合の上へ一般化しても、既存の範疇を超えていないことを教えてくれる定理である。 この定理はしばしば有用な応用を与える。 例えばSardの定理の微分可能性の仮定を落とした場合の反例の構成に使える。 応用はさておくとしてもこの定理は知っているだけでも大変ありがたいものであると私は考える。 しかしながらこの定理の強力さに対してその証明が述べられているのは原論文だけであり、その論文は1935年に書かれたこともあって、現代的にはとても読みづらいものになってしまっている。 そこでこの文章では原論文の証明をなぞりつつも、 可能な限り読みやすい証明を提供する。 その目的の一環がおまけの章にある微分のモデル代数である。 この概念はこの文章だけのものなので他の場所で断りなく用いると 恥ずかしい思いをするかもしれないが、それはさておき、 微分のモデル代数は微分公式を可微分関数を用いて証明するのではなく抽象的な代数操作によって証明するために導入した。

1 Preliminaries

1.1 多重指数記法

この文章では

Zn=ℤ≥0n

と定義する。 各k∈Znに対して、その成分をk=(k1,k2,…,kn)としたとき

σk=k1+k2+⋯+kn

と定義し、

∂k=∂k1∂k2…⁢∂kn

と定義する。この文章では偏微分の順序を気にしない関数しか出てこないので、∂kの定義に出てくる偏微分の順序は我々も気にしないことにする。 また、

k!=k1!⁢k2!⁢⋯⁢kn!

と定義し、 x∈ℝnに対して

xk=xk1⁢xk2⁢⋯⁢xkn

と定義する。

k,l∈Znに対して

k<l⇔∀i∈{1,2,…,n}⁢ki<li

と定め、

k≤l⇔∀i∈{1,2,…,n}⁢ki≤li

とする。k≤lのとき、その二項係数を

(kl)=(k1l1)⁢(k2l2)⁢⋯⁢(knln)

と定義する。 簡単にわかることだが、(kl)≤(σk!)nとなる。 また、l≤kのとき、

k−l=(k1−l1,k2−l2,…,kn−ln)

と定義する。このときちゃんとk−l∈Znとなる。

補助的にm∈ℤ≥0∪{∞}に対して

Zn⁢(m)={k∈Zn∣σk≤m}

と定義する。もちろんZn⁢(∞)=Znである。 多変数の場合のライプニッツ則は多重指数記号を用いると1変数の場合と同じように述べることができる。

補題 1.

Uをℝnの開集合とする。 二つのCm級関数f,g,U→ℝとk∈Zn⁢(m)について

∂k(f⁢g)=∑l≤k(kl)⁢(∂k−lf)⁢(∂lg)

が成り立つ。

1.2 その他基本的な定義

以下の補題は初等的に見えるが、拡張定理を証明する上で本質的である。

命題 2.

Jをℝの開区間とする。 連続写像w:J→ℝとJの閉集合A⊂J、v∈ℝ、a∈Jは以下を充たすとする。 任意のεに対してδ>0が存在して

  1. (1)

    x∈Aかつ|x−a|<δならば

    |w⁢(x)−w⁢(a)x−a−v|<ε

    である。

  2. (2)

    x∈J∖Aかつ|x−a|<δならば導関数w′⁢(x)が存在し、

    |w′⁢(x)−v|<ε

    である。

    このときwはA上の任意の点a∈Aにおいて微分可能でw′⁢(a)=vである。

証明.

任意のa∈Aと 任意のεに対してδ>0が存在して任意の|x−a|<δならば

|w⁢(x)−w⁢(a)x−a−v|<ε

を示せばよい。 話を簡単にするためにa≤xとする。 x∈J∖Aのときに目的の式を示せばよい。 ここでpxをpx∈Aで、A∩(px,x)=Øとなるものとする。 Aが閉集合なのでこのようなpxは存在する。 また、a≤pxである。 (2)からwは開区間(px,x)で微分可能なので中間値の定理から

w⁢(x)=w⁢(px)+w′⁢(c)⁢(x−px)

となるc∈(px,x)が存在する。 さてこのとき、

w⁢(x)−w⁢(a)x−a =w⁢(x)−w⁢(px)x−px⁢x−pxx−a+w⁢(px)−w⁢(a)px−a⁢px−ax−a
=w′⁢(c)⁢x−pxx−a+w⁢(px)−w⁢(a)px−a⁢px−ax−a

となり、また、

v=v⁢x−pxx−a+v⁢px−ax−a

なので

|w⁢(x)−w⁢(a)x−a−v|≤|w′⁢(c)−v|⁢|x−pxx−a|+|w⁢(px)−w⁢(a)px−a−v|⁢|px−ax−a|

である。さてpx及びcの定義から|c−a|<δ、|px−a|<δなので|w′⁢(c)−v|<εかつ|w⁢(px)−w⁢(a)px−a−v|<εである。また、pxの定義から|x−px|≤|x−a|かつ|px−a|≤|x−a|なので 結局|x−a|<δならば

|w⁢(x)−w⁢(a)x−a−v|<2⁢ε

を得る。 ∎

Aをℝnの部分空間とする。

定義 3.

m∈ℤ≥0∪{∞}とする。 f:A→ℝがA上Whitneyの意味でCm級であるとはA上の関数列 {fk}k∈Zn⁢(m)が存在して、f0=fであり、任意のk∈Zn⁢(m)と x,y∈Aについて

Rk⁢(x;y)=fk⁢(x)−∑σl≤m−σkfk+l⁢(y)l!⁢(x−a)l

で定義されるRk⁢(x;y)が次を充たすときにいう: 任意にAの点pと任意にεを与えたときにδ>0が存在して、‖x−p‖<δかつ‖y−p‖<δならば

|Rk⁢(x;y)|≤‖x−y‖m−σk⁢ε

を充たす。

このとき{fk}k∈Zn⁢(m)を、この文章では、Whitney導関数と呼ぶことにする。

注意.

各fkは連続であることに注意しよう。fkの取り方は一意的でないことに注意しよう。

定義 4.

関数f:A→ℝはWhitneyの意味でCm級であり、{fk}k∈Zn⁢(m)はそのWhitney導関数とする。 このときk∈Zn⁢(m)とy∈Aとx∈ℝnに対して

ψk⁢(x;y)=∑σl≤m−σkfk+l⁢(y)l!⁢(x−y)l

と定義する。

命題 5.

x,y∈A、z∈ℝnとする。このとき

ψk⁢(z,y)=ψk⁢(z,x)+∑σl≤m−σkRk+l⁢(y;x)l!⁢(z−y)l

が成り立つ。

証明.

多項式に関するテイラー展開から

ψk⁢(z,x) =∑σl≤m−σkψk+l⁢(y,x)l!⁢(z−y)l
=∑σl≤m−σk(z−y)ll!⁢∑σj≤m−σk+lfk+l+j⁢(x)j!⁢(y−x)j

を得る。よって

ψk⁢(z,y)=ψk⁢(z,x)+∑σl≤m−σkRk+l⁢(y;x)l!⁢(z−y)l

が成り立つ。 ∎

補題 6.

R=(1+δ)⁢Qとする。このとき任意のy∈Rに対してx∈Qが存在して

d⁢(y,x)≤δ⁢diam⁢(Q)

となる。

証明.

Qの中心は0としてもよい。 R=(1+δ)⁢Qなのでy∈Rに対してy=(1+δ)⁢xとなるx∈Qが存在する。 このとき

d⁢(y,x)=δ⁢|x|≤δ⁢diam⁢(Q)

である。 ∎

2 Whitney Decomposition

定義 7 (二進立方体).

ℝnの部分集合QはQ=∏in[ai,bi)で、

ai=mi⁢2−l,bi=(mi+1)⁢2−l

mi∈ℕ, l∈ℤ と書けるものを二進立方体と呼び、lをQの世代と呼ぶことにする。 世代がlの二進立方体全体を𝐃lで表すことにする。

命題 8.

Oをℝnの開集合とすると、次のような二進立方体の高々可算な列{Qi}が存在する。

  1. (1)

    i≠j⟹Qi∩Qj=Ø

  2. (2)
    ⋃i∈ℕQi=O
  3. (3)
    n⁢ℓ⁢(Qi)≤d⁢(Qi,Oc)≤4⁢n⁢ℓ⁢(Qi)
  4. (4)

    QiとQjが隣あっていれば、

    4−1≤ℓ⁢(Qi)ℓ⁢(Qj)≤4
  5. (5)

    各Qiは高々12n個の{Qi}の元としかとなりあわない。

  6. (6)

    0<u<4−1とする。各iについてRiをQiと同じ中心を持ち、辺の長さが(1+ε)⁢ℓ⁢(Qi)となる閉立法体とする。 すなわち、Ri=CL⁢((1+u)⁢Qi)である。このときRiは高々12n個のほかの{Ri}の元としか交わらない。

  7. (7)

    1−u1+u⁢n⁢ℓ⁢(Ri)≤d⁢(Ri,Oc)≤41+u⁢n⁢ℓ⁢(Ri)

証明.

任意のk∈ℤに対して

Ok={x∈O∣2⁢n⁢2−k<d⁢(x,Oc)≤4⁢n⁢2−k}

と置く。すると

O=⋃k∈ℤOk

である。

𝐄k={Q∈𝐃k∣Q∩Ok≠Ø}

とし、次に

𝐄=⋃k∈ℤ𝐄k

と定める。 Q∈𝐄に対して(3)と同じことが成り立つ。 つまり、

n⁢ℓ⁢(Q)≤d⁢(Q,Oc)≤4⁢n⁢ℓ⁢(Q)

が成り立つ。まずはこのことを示そう。 Q∈𝐄kとする。 まず、diam⁢(Q)=n⁢ℓ⁢(Q)=n⁢2−kに注意しよう。 そしてx∈Ok∩Qをとると

n⁢2−k≤d⁢(x,Oc)−diam⁢(Q)≤d⁢(Q,Oc)≤d⁢(x,Oc)≤4⁢n⁢2−k

なので上で今言ったことは成り立つ。

𝒮={𝐒∣𝐒⊂𝐄,𝐒⁢は⁢(1)⁢を満たす。}を考える。 列{Ai}⊂𝐄について、Ai⫋Ai+1となるものは存在しないことに注意しよう。 何故ならQ⊂Pならばd⁢(Q,Oc)≥d⁢(P,Oc)なので(3)から

ℓ⁢(P)≤4⁢ℓ⁢(Q)

がわかる。よってQを含む𝐄の元はたかだか有限個である。 このことから、𝒮に包含関係を順序としてZornの補題が適用できる。 𝒮の極大元を𝐓={Qi}としよう。これが条件を満たすことを示そう。

まず(1)については𝒮の定義から明らかである。

(2)については𝐄の定義と𝐓の極大性から直ちに従う。

(3)は先ほど示した。

(4)を示そう。QiとQjが隣り合っていればCL⁢(Qi)∩CL⁢(Qj)≠Øに注意しよう。 このとき、(3)から

n⁢ℓ⁢((Qi)) =n⁢ℓ⁢(CL⁢(Qi))≤d⁢(CL⁢(Qi),Oc)≤diam⁢(CL⁢(Qj))+d⁢(CL⁢(Qj),Oc)
≤n⁢ℓ⁢(CL⁢(Qi))+4⁢n⁢ℓ⁢(CL⁢(Qj))=5⁢n⁢ℓ⁢(Qj)

となる。比ℓ⁢(Qi)/ℓ⁢(Qj)は2の整数べきのはずなので ℓ⁢(Qi)/ℓ⁢(Qj)≤4である。 これから(4)が従う。

(5)を示そう。Qiを一つ固定する。A={Qk∈𝐓∣Qk⁢は⁢Qi⁢と⁢隣⁢り⁢合⁢う⁢。} を考える。Q∈Aについて、

4−1⁢ℓ⁢(Qi)≤ℓ⁢(Q)≤4⁢ℓ⁢(Qi)

である。B={Q∈𝐃∣ℓ⁢(Q)=4−1⁢ℓ⁢(Qi)}とすれば、

card⁢(A)≤card⁢(B)

である。また、C={Q∈𝐃∣ℓ⁢(Q)=ℓ⁢(Qi)}とすると

card⁢(B)=4n⁢card⁢(C)

であり、また、card⁢(C)=3n−1であるから(5)が従う。

(6)を示そう。Riの半径はr⁢(1+u)/2で、u∈(0,4−1)なので、RiとRjが交わるならば、QiとQjは隣り合っている。

最後に(7)を示そう。Qi⊂Riなので

d⁢(Ri,Oc)≤d⁢(Qi,Oc)≤n⁢ℓ⁢(Qi)

である。 補題6より y∈Riをとるとd⁢(x,y)≤u⁢diam⁢(Qi)となるx∈Qiが存在するので

n⁢ℓ⁢(Qi)≤d⁢(Qi,Oc)≤d⁢(x,Oc)≤d⁢(x,y)+d⁢(y,Oc)≤u⁢diam⁢(Qi)+d⁢(Ri,Oc)

からわかる。 ∎

補題 9.

先の命題と同じ記号を用いる。このとき

2−1⁢diam⁢(Ri)≤d⁢(Ri,Oc)≤4⁢diam⁢(Ri)

が成り立つ。

証明.

ε∈(0,4−1)からわかる。 ∎

3 Whitney Partition of unity

この節ではWhitney decompositionを用いて、微分の大きさも制御できるような単位の分割を構成することが目的である。

{Qi}をOのWhitney分解であるとする。 そして Q=[−2−1,2−1]n上で恒等的に1の値をとり、R=CL⁢((1+u)⁢Q)⁢(u∈(0,4−1))の外では0の値をとるようなC∞関数

τ:ℝn→[0,1]

を考える。 Qiの中心をciとして、

τi=ψ⁢(x−ciℓ⁢(Qi))

と定義する。 supp⁡(τi)⊂(1+u)⁢Qiなので{ψi}は局所有限である。よって

T⁢(x)=∑i∈ℕτi⁢(x)

と定義できる。 そして

ϕi⁢(x)=τi⁢(x)T⁢(x)

と定義する。 任意のk∈Znに対して Nk=maxx∈ℝn⁡|∂kτ⁢(x)|とし、 Hm=maxk∈Zn⁢(m)⁡Nk とする。

{Qi}は全て立方体であり、Qiと隣り合う{Qi}の元もQiの大きさで制御できることと、二進立方体Qに隣接する、Qと世代が高々二個しか違わない二進立方体の配置は有限個しかないので以下のことが成り立つ。

補題 10.

あるM>1が存在して、任意のx∈Oに対して

1M≤T⁢(x)

が成り立つ。

以下ではこの文章の一番最後の節に書いたおまけの節の結果を用いる。読むのが面倒な時は命題13を認めて次の説に進むのが良い。

おまけの節の結果にdi=∂i、v0=Tを代入した結果を用いる。 命題23から次のことがわかる。

補題 11.

Mを先の補題にでてきたものとする。 任意のx∈Riと 任意のk∈Znに対して

|∂k(1T)⁢(x)|≤(Mσk+1⁢(12n⁢4⁢Hσk)σk⁢∑s∈J⁢(σk)Γs)⁢ℓ⁢(Qi)−σk
証明.

まず、 |∂kτi|≤Nk⁢ℓ⁢(Qi)−σkがわかる。そして 命題23より

|∂k(1T)|≤∑s∈I⁢(σk+1,σk)Γs⁢|Δ⁢(s)|

がわかるが、I⁢(σk+1,σk)の定義より、

∑s∈I⁢(σk+1,σk)Γs⁢|Δ⁢(s)|≤Mσk+1⁢∑s∈I⁢(σk+1,σk)Γs⁢|Δ⁢(s∗)|

となる。 ここで、s∗はs∗⁢(0)=0で、k∈Zn∖{0}についてはs∗⁢(k)=s⁢(k)で定義されるCnの元である。 s∈I⁢(σk+1,σk)に対して supp⁡(s∗)={k⁢(1),k⁢(2),…,k⁢(v)}とすると

Δ⁢(s∗)=(∂k⁢(1)T)s⁢(k⁢(1))⁢(∂k⁢(2)T)s⁢(k⁢(2))⁢…⁢(∂k⁢(v)T)s⁢(k⁢(v))

となる。 さらにT⁢(x)=∑i=1wτλ⁢(i)⁢(w≤12n)とすると

|∂l(T)⁢(x)|≤∑i=1w|∂lτλ⁢(i)|≤12n⁢4⁢Nl⁢ℓ⁢(Qi)−σl≤12n⁢4⁢Hl⁢ℓ⁢(Qi)−σl

なのでs∈I⁢(σk+1,σk)について

|Δ⁢(s∗)|≤(12n⁢4⁢Hσk)(∑i=1vs⁢(k⁢(i)))⁢ℓ⁢(Qi)−∑i=1vσk⁢(i)⁢s⁢(i)≤(12n⁢4⁢Hσk)σk⁢ℓ⁢(Qi)−σk

がわかる。 これらのことから、補題が成り立つことがわかる。 ∎

補題 12.

任意のkに対してあるCkが存在して、任意のi∈ℕについて

|∂kϕi|≤Ck⋅ℓ⁢(Qi)−σk
証明.

ϕi=τi/Tなので

∂k(ϕi)=∂k(τiT)=∑l≤k(kl)⁢(∂k−lτi)⁢(∂l(T−1))

となる。先の補題から

|∂k(ϕi)|≤∑l≤k(kl)⁢|(∂k−lτi)|⁢|(∂l(T−1))|≤
∑l≤k(kl)⁢Nk−l⁢ℓ⁢(Qi)−σk+σl⁢(Mσl+1⁢(12n⁢4⁢Hσl)σl⁢∑s∈I⁢(σl+1,σl)Γs)⁢ℓ⁢(Qi)−σl≤
(Mσk+1⁢(12n⁢4⁢Hσk)σk⁢∑s∈I⁢(σk+1,σk)Γs)⁢(Nk⁢∑l≤k(kl))⁢ℓ⁢(Qi)−σk

よって、

Ck=(Mσk+1⁢(12n⁢4⁢Hσk)σk⁢∑s∈I⁢(σk+1,σk)Γs)⁢(Nk⁢∑l≤k(kl))

とおけば命題の主張は成り立つ。 ∎

以上の議論をまとめると次のことがわかる。

命題 13.

{ϕi}は先に定義された関数とする。このとき次のことが成り立つ。

  1. (1)

    任意のi∈ℕについてsupp⁡(ϕi)⊂Ri

  2. (2)
    ∑i∈ℕϕi=χO
  3. (3)

    任意のk∈Znに対してあるCkが存在して、任意のi∈ℕについて

    |∂kϕi|≤Ck⋅ℓ⁢(Qi)−σk

    が成り立つ。

4 Whitney Extension

この節ではWhitneyの拡張定理を証明する。まず最初に微分可能性の仮定が有限な場合を証明する。

定理 14.

m∈ℤ≥0で、Aはℝnの閉集合とし、f:A→ℝをWhitneyの意味でCm級とし、{fk}k∈Zn⁢(m)を、そのWhitney導関数とする。 このときCm級関数g:ℝn→ℝが存在して 任意のa∈Aとk∈Zn⁢(m)に対して

∂kg⁢(a)=fk⁢(a)

が成り立ち、ℝn∖A上でgはC∞級となる。

証明.

gを構成して、 任意のε>0と任意のa∈Aおよび任意のk∈Zn⁢(m)について、あるδ>0が存在して、 x∈ℝn∖Aが‖x−a‖<δを充たすならば

|∂kg⁢(x)−fk⁢(a)|<ε

を示せばよい。 何故ならば、 gをℝnの軸に平行な直線に制限して、 命題2を用いれば、 任意のk∈Zn⁢(m)とa∈Aについて∂kg⁢(a)=f⁢(a) がわかるからである。

まずgを構成する。 {Qi}をℝn∖AのWhitney分解とし、{ϕi}をそのWhitneyの単位の分割とする。また、Ri=CL⁢((1+u)⁢Qi)⁢(u∈(0,4−1))とする。 そして aiを

d⁢(A,Ri)=d⁢(ai,Ri)

となるai∈Aとする。 これらを用いて

g⁢(x)={∑i∈ℕϕi⁢(x)⁢ψ⁢(x;ai)x∈ℝ∖Af⁢(x)x∈A

と定義する。 以下では、初めに述べた主張を示そう。 l∈Znに対してClは命題13に現れる定数とする。 さらに以下のように定数を定義する。

C=maxσl≤m⁡Cl
E=supy∈B⁢(a,2)∩A∑σl≤m−σk,l≠0|fk+l⁢(y)|l!<∞

任意にε>0を与える。そしてηを

η=ε4⁢112n⁢((m+2)!)n⁢(20⁢n)m⁢(C+1)

とおき、 θ1を‖y−a‖<θ1ならば、t⁢(σt≤m)について

|Rt⁢(y,a)|<‖y−a‖m−σt⁢ε2m⁢6

を満たすように取り、 θ2を、θ2<1で‖y−a‖,‖z−a‖<θ2ならば任意のt⁢(σt≤m)について

|Rt⁢(y;z)|≤‖y−z‖m−σt⁢η

を充たすように取る。 そしてδを

δ=12⁢min⁡{θ12,θ24,ε18⁢(E+1),110}

と定義する。 いまからx∈ℝn∖Aが‖x−a‖<δを充たすならば

|∂kg⁢(x)−fk⁢(a)|<ε

を示す。

D=d⁢(x,A) とし、b∈AをD=d⁢(x,b)でかつb∈B⁢(x,1)となるものとする。このようなbは存在する。なぜならd⁢(x,A)≤d⁢(x,a)<δ<1だからである。d⁢(a,x)<δ<1より、a∈B⁢(x,1)でもあるので上のようなbはb∈B⁢(a,2)も充たす。

そして‖x−b‖=d⁢(x,A)≤d⁢(x,a)なので

d⁢(b,a)≤d⁢(b,x)+d⁢(x,a)≤2⁢δ

であるから、特にd⁢(b,a)<θ1となり、

‖Rk⁢(y,a)‖<‖b−a‖m−σk⁢ε2m⁢6≤(2⁢δ)m−σk⁢ε2m⁢6≤ε6

がわかる。 さて

ψk⁢(b;a)=∑σl≤m−σkfk+l⁢(a)l!⁢(b−a)l=fk⁢(a)+∑σl≤m−σk,l≠0fk+l⁢(a)l!⁢(b−a)l

から

(1) |ψk⁢(b;a)−fk⁢(a)|≤∑σl≤m−σk,l≠0|fk+l⁢(a)|l!⁢‖b−a‖σl

がわかる。 同様にして

(2) |ψk⁢(x;b)−fk⁢(b)|≤∑σl≤m−σk,l≠0|fk+l⁢(b)|l!⁢‖x−b‖σl

がわかる。 さて、2⁢δ<1から‖b−a‖<1から ‖b−a‖σl≤‖b−a‖となる。よって、(1)とEの定義を思い出すと、

|ψk⁢(b;a)−fk⁢(a)|≤E⁢‖b−a‖≤2⁢E⁢δ<ε/6

となる。 また、 d⁢(x,b)≤d⁢(x,a)+d⁢(a,b)≤3⁢δ<1より、 ‖x−b‖σl≤‖x−b‖であり、Eの定義とb∈B⁢(a,2)を思い出すと、(2)から

(3) |ψk⁢(x;b)−fk⁢(b)|≤E⁢‖x−b‖≤3⁢E⁢δ<ε/6

を得る。

そして

(4) |fk⁢(b)−fk⁢(a)|≤|ψk⁢(b,a)−fk⁢(a)|+|Rk⁢(b;a)|

と以上の評価から結局

|ψk⁢(x;b)−fk⁢(a)| ≤|ψk⁢(x;b)−fk⁢(b)|+|fk⁢(b)−fk⁢(a)|
≤|ψk⁢(x;b)−fk⁢(b)|+|ψk⁢(b,a)−fk⁢(a)|+|Rk⁢(b;a)|<ε/2

となるので、

(5) |ψk⁢(x;b)−fk⁢(a)|<ε/2

がわかる。

さて、 x∈Riとなるiを、番号付けてλ⁢(1),λ⁢(2),…⁢λ⁢(s)⁢(s≤12n)とする。 ここで、d⁢(ai,yi)=d⁢(ai,Ri)=d⁢(A,Ri)となるyiをとる。すると

d⁢(a,ai)≤d⁢(x,a)+d⁢(x,ai)≤d⁢(a,x)+d⁢(x,yi)+d⁢(yi,ai)≤d⁢(a,x)+diam⁢(Ri)+d⁢(A,Ri)

がわかる。ここで、diam⁢(Ri)≤2⁢d⁢(A,Ri)≤2⁢d⁢(a,Ri)≤2⁢d⁢(a,x)かつ、d⁢(A,Ri)≤d⁢(a,x)なので

d⁢(a,ai)≤4⁢d⁢(x,a)≤4⁢δ<θ2

で、またd⁢(a,b)<2⁢δ<θ2なので 結局、d⁢(ai,a)<θ2かつd⁢(b,a)<θ2であるから 任意のt⁢(σt≤m)について

(6) |Rt⁢(ai;b)|≤‖ai−b‖m−σt⁢η

が成り立つ。

αi,k⁢(x)=ψk⁢(x;ai)−ψk⁢(x;b)と置く。 このとき命題5から

(7) |αi;k⁢(x)|≤∑σl≤m−σk|Rk+l⁢(ai;b)|l!⁢‖x−ai‖σl

となる。

d⁢(ai,b)≤d⁢(x,ai)+d⁢(x,b)=d⁢(x,ai)+d⁢(x,A)≤2⁢d⁢(x,ai)に注意しよう。

g⁢(x)=ψ⁢(x;b)+∑i=⁢1sϕλ⁢(i)⁢(x)⁢αλ⁢(i);0⁢(x)

をk階微分すると

∂kg⁢(x)=ψk⁢(x;b)+∑i=⁢1s∑l≤k(kl)⁢∂lϕλ⁢(i)⁢(x)⁢αλ⁢(i);k−l⁢(x)

を得る。 ∑σl≤m−σk1l!≤(m+1)nを踏まえて、

|αi;k⁢(x)|≤∑σl≤m−σk|Rk+l⁢(ai;b)|l!⁢‖x−ai‖σl≤∑σl≤m−σk2m−σk+l⁢1l!⁢‖x−ai‖m−σk⁢η≤2m⁢(m+1)n⁢‖x−ai‖m−σk⁢η

を得る。また、

d⁢(x,ai)≤d⁢(x,yi)+d⁢(yi,ai)≤diam⁢(Ri)+d⁢(A,Ri)≤diam⁢(Ri)+4⁢diam⁢(Ri)
=5⁢diam⁢(Ri)=5⁢(1+u)⁢diam⁢(Qi)≤10⁢n⁢ℓ⁢(Qi)

と

d⁢(x,ai)≤d⁢(x,a)+d⁢(a,ai)≤5⁢d⁢(x,a)<5⁢δ<2−1

が成り立つことに注意しよう。 s≤12nであり、また (kl)≤(m!)nおよび |∂lϕλ⁢(i)⁢(x)|≤Cl⋅ℓ⁢(Qi)−σl が成り立つことや、 C=maxl≤m⁡Cl, ∑l≤k1≤(m+1)n や、(m+1)2⁢n⁢(m!)n≤((m+2)!)nとかWhitneyの単位の分割の性質 を踏まえると

|∂kg⁢(x)−ψk⁢(x;b)| ≤∑i=1s∑l≤k(kl)⁢|∂ϕλ⁢(i)⁢(x)|⁢|αλ⁢(i);k−l⁢(x)|
≤∑i=1s∑l≤k(kl)⁢Cl⋅ℓ⁢(Qi)−σl⋅2m⁢(m+1)n⁢‖x−ai‖m−σk+σl⁢η
≤∑i=1s∑l≤k2m⁢(m!)n⁢(m+1)n⁢(10⁢n)σl⁢C⁢‖x−ai‖−σl⋅‖x−ai‖m−σk+σl⁢η
≤2m⁢(m+1)n⁢(m+1)n⁢(m!)n⁢C⁢(10⁢n)m⁢∑i=⁢1s‖x−ai‖m−σk⁢η
≤2m⁢12n⁢((m+2)!)n⁢(10⁢n)m⁢(12)m−σk⁢C⁢η
<2m⁢12n⁢((m+2)!)n⁢(10⁢n)m⁢C⁢η≤ε2

がわかる。この式と (5)から

|∂kg⁢(x)−fk⁢(a)|<ε

がわかる。

∎

定理 15.

Aをℝnの閉集合とし、f:A→ℝをWhitneyの意味でC∞級とし、{fk}k∈ZnをfのWhitney微分とする。このときℝn上のC∞級関数g:ℝn→ℝが存在して 任意のa∈Aと任意のk∈Znについて

∂kg⁢(a)=fk⁢(a)

が成り立つ。

証明.

p∈ℕについて

ψp,k⁢(x;y)=∑σl≤p−σkfk+l⁢(y)l!⁢(x−a)l

と定義する。 {Qi}をℝn∖AのWhitney分解とし、{ϕi}をそのWhitneyの単位の分割とする。Ri=(1+u)⁢Qi⁢(u∈(0,4−1))とする。 適当にo∈Aを取り、Sp=B⁢(o,2p)とする。 そして各p∈ℕについて

Lp=sup{|fk⁢(x)|∣x∈A∩Sp}
C(p)=max⁡{Ck∣σk≤p}

と定義する。ここでCkは命題13で述べられている定数である。 そしてさらに {δp}p∈ℕを

(1) δp<δp−14
(2) δp<12p⁢12n⁢3⁢((p+2)!)n+1⁢(10⁢n)p+1⁢C(p)⁢Lp+1

の両方を充すような実数の列とする。

各i∈ℕについて

δγ⁢(i)+1≤d⁢(A,Ri)<δγ⁢(i)

となる風にγ⁢(i)を定める。 そして aiを

d⁢(A,Ri)=d⁢(ai,Ri)

となるai∈Aとし、関数h:ℝn→ℝを

h⁢(x)={∑i∈ℕϕi⁢(x)⁢ψγ⁢(i),0⁢(x;ai)x∈ℝ∖Af⁢(x)x∈A

と定義する。

また補助的に各m∈ℕについてgm:ℝn→ℝを

gm⁢(x)={∑i∈ℕϕi⁢(x)⁢ψσk,0⁢(x;ai)x∈ℝ∖Af⁢(x)x∈A

と定義する。 定理14の証明を見ればわかるように、 このように構成されたgはCm級関数で、任意のa∈Aと任意のk∈Zn⁢(m)に対して、

∂kgm⁢(a)=fk⁢(a)

を充す。

定理を示すには、任意のk∈Znと任意のεと任意のa∈Aを与えたときにδ>0が存在して ‖x−a‖<δならば

|∂kh⁢(x)−∂kgσk⁢(x)|<ε

となることを示せばよい。 以下ではこれを示してゆく。 自然数p∈ℕを

(3) p≥σk
(4) a∈Sp
(5) 2−p<ε

を充たすものとする。 δをδ=2−1⁢min⁡{δp,5−1}と取る。 ‖x−a‖<δとしよう。

qを

δq+1≤d⁢(x,A)<δq

となるようにとる。するとδq+1≤δpなのでq≥pである。 また、x∈Riとなるiについてδγ⁢(i)≤δpなのでγ⁢(i)≥pでもある。 そしてd⁢(y,A)=d⁢(Ri,A)となるyをとれば

d⁢(x,A)≤d⁢(x,y)+d⁢(y,A)≤diam⁢(Ri)+d⁢(Ri,A)≤3⁢d⁢(A,Ri)

なのでδq+2<δγ⁢(i)となりγ⁢(i)≤q+1がわかる。

βi⁢(x)=ψγ⁢(i);0⁢(x;ai)−ψσk;0⁢(x;ai)

とすれば

h⁢(x)=gσk⁢(x)+∑i=1sϕλ⁢(i)⁢βλ⁢(i)⁢(x)

である。 さてγ⁢(i)≥p≥σkに注意して

(6) ∂jβi⁢(x)=∑σl=σk−σj+1γ⁢(i)−σjfj+l⁢(ai)l!⁢(x−ai)l

を得る。 d⁢(x,ai)≤5⁢d⁢(x,a)≤5⁢δ<2−1<1 および

d⁢(x,ai)≤d⁢(x,yi)+d⁢(yi,ai)≤diam⁢(Ri)+d⁢(A,Ri)≤3⁢d⁢(A,Ri)≤3⁢d⁢(x,A)≤3⁢δq

から

(7) |∂jβi⁢(x)|≤3⁢(q+1)n⁢Lq+1⁢‖x−ai‖σk−σj⁢δq

を得る。ここで、

∑σl=σk−σj+1γ⁢(i)−σj1≤∑li≤γ⁢(i)1≤(γ⁢(i))n≤(q+1)n

を用いた。 命題13を思い出すと、任意のt∈Znについて

|∂tϕi⁢(x)|≤Ct⁢ℓ⁢(Qi)−σt≤Ct⁢(10⁢n)t⁢‖x−ai‖−σt

となることがわかる。

以上のことから

|∂kh⁢(x)−∂kgσk⁢(x)| ≤∑i=1s∑j(kj)⁢|∂k−jϕλ⁢(i)⁢(x)|⁢|∂jβλ⁢(i)⁢(x)|
≤12n⁢(10⁢n)σk⁢∑j(kj)⁢‖x−ai‖−(σk−σj)⁢C(σk)⁢3⁢(q+1)n⁢Lq+1⁢‖x−ai‖σk−σj⁢δq
=12n⁢(10⁢n)q+1⁢(q+1)n⁢∑j(kj)⁢C(σk)⁢3⁢Lq+1⁢δq

がわかる。 ところで、 σk<p≤qなので

∑j≤k(kj)≤∑j≤k(σk!)n≤∑ji≤σk(σk!)n≤σk⁢((σk)!)n≤((q+1)!)n+1

が成り立ち、また、

(q+1)n⁢((q+1)!)n≤((q+2)!)n+1

なので

|∂kh⁢(x)−∂kgσk⁢(x)|≤3⋅12n⁢((q+2)!)n+1⁢(5⁢n)q+1⁢C(q)⁢Lq+1⁢δq

を得る。 また、δqの定義から

3⋅12n⁢((q+2)!)n+1⁢(5⁢n)q+1⁢C(q)⁢Lq+1⁢δq<2−q≤2−p<ε

なので結局

(8) |∂kh⁢(x)−∂kgσk⁢(x)|<ε

がわかる。 ∎

以上の二つをまとめると以下のようになる。

定理 16.

m∈ℤ≥0∪{∞}とし、また、 Aはℝnの閉集合とする。 関数f:A→ℝはWhitneyの意味でCm級で、{fk}k∈Zn⁢(m)はそのWhitney導関数とする。このときCm級関数g:ℝn→ℝが存在して 任意のa∈Aと任意のk∈Zn⁢(m)について

∂kg⁢(a)=fk⁢(a)

が成り立ち、ℝn∖A上でgはC∞級となる。

この定理がいわゆるWhitneyの拡張定理である。 Whitneyはより強く、ℝn∖A上でCω級になるような拡張を構成しているが、使わないので細かいことは省略する。

5 応用: 1より大きい指数でヘルダー連続になる関数

定義 17.

写像f:X→Yがα-HölderであるとはあるMが存在して任意のx,y∈Xに対して

dY⁢(f⁢(x),f⁢(y))≤(dX⁢(x,y))α

を充すときにいう。

命題 18.

Aをℝnの閉集合とし、 α≥1として、さらに、 写像f:A→ℝはα-Hölderとする。 そして、 各k∈Zn⁢(⌊α⌋)について、 A上の関数族を、k≠0ならばfk⁢(x)≡0と定義し、f0=fと定義する。 このとき、{fk}k∈Zn⁢(⌊α⌋)は、fのWhitney導関数になり、 f:A→ℝはWhitneyの意味でC⌊α⌋ 級関数になっている。

証明.

簡単に確かめられる。 ∎

このことと、Whitneyの拡張定理から次のことがわかる。

命題 19.

閉集合A⊂ℝn上で定義されたα-Hölder写像に対して、 ℝn上の C⌊α⌋級関数Fで、 任意のk∈Zn⁢(⌊α⌋)について、

∂kF=0

となるものが存在して、

F|A=f

を充す。

命題 20 (Sardの定理にまつわる例).

写像f:ℝ2→ℝで、f⁢(Cf)が一次元ルベーグ測度で正になるものが存在する。

証明.

写像f0,f1,f2,f3:ℝ2→ℝを

f0⁢(x)=3−1⁢x
f1⁢(x)=3−1⁢x+(2−1,1/6)
f2⁢(x)=3−1⁢x+(2−1,2−1)
f3⁢(x)=3−1⁢x+(1/6,2−1)

と定義する。fi⁢(Q)⊂Qを充すことに注意しよう。 Q⁢(n1)=fn1⁢(Q)⁢(n1∈{0,1,2,3})と定め、 一般に、Q⁢(n1,n2,…,nk)が定義されたとき、 Q⁢(n1,n2,…,nk,nk+1)=fnk+1⁢(Q⁢(n1,n2,…,nk)) と定義する。 そして

Ak=⋃i∈{1,2,…,k},ni∈{0,1,2,3}Q⁢(n1,n2,…,nk)

と定義し、

P=⋂k∈ℕAk

とする。Pはカントール集合と同相である。 各x∈Pに対して、x∈Q⁢(a1,a2,…,ak)かつ x∈Q⁢(b1,b2,…,bl)でk≤lならば、 任意のi∈{1,2,…,k}に対してai=biであるから、xに対して 無限列{ni⁢(x)}i∈ℕで

{x}=⋂k∈ℕQ⁢(n1⁢(x),n2⁢(x),…,nk⁢(x))

となるものがただ一つ定まる。これを用いて、 写像f:P→ℝを

f⁢(x)=∑k=1∞nk⁢(x)4k

と定義する。 さて、x,y∈Pについて、k番目で初めてnk⁢(x)≠nk⁢(y)となったとすると、

3−k≤‖x−y‖

となる。 そして

|f⁢(x)−f⁢(y)|≤∑i=k34i≤14k−1

となるので、s=log⁡4/log⁡3として

|f⁢(x)−f⁢(y)|≤4−1⁢‖x−y‖s

が成り立つ。 また、任意の無限列{ni}i∈ℕ⁢(ni∈{0,1,2,3})に対して ni⁢(x)=niとなるx∈Pが存在するので、 f⁢(P)=[0,1]である。s>1なので、 このfに先の命題を適用し、 任意のk∈Z2⁢(1)とx∈Pに対して

∂kF⁢(x)=0

で F|P=fとなる Fを得ると、P⊂CFなので、

[0,1]⊂F⁢(CF)

となり、FはC1級でF⁢(CF)は正測度を持つ。 ∎

6 おまけ・微分公式と微分のモデル代数

この章では微分のモデル代数を導入し、ある特定の微分公式を証明する。 これを導入する目的は文章の冒頭で述べたとおり、 わかりやすさの担保であるが、もう一つの理由として 微分公式に現れる係数が普遍的であることが簡単にわかるためである。 例えば簡単な微分公式である

(f+g)′=f′+g′

についても、f,gの選び方によっては (f+g)′=2⁢f′であったり、(f+g)′=gであったりするわけである。 こういう曖昧さを避けるために微分操作を抽象化して微分公式を証明したいと思った。 しかしながら以下で述べる微分の代数化、抽象化はむしろ万人がある種の微分公式を証明する時に無意識にやっているのだと私は思う。微分可能関数fを任意にとってもそれは「不定元」でしかないし、微分もライプニッツ則を充たす準同型でしかないわけである。 だからと言って今から導入する概念が無駄かというと、(全否定もできないけれど)そうではないと思う。人が無意識に行う推論、操作を発見し具象を与えることもまた数学の営みの一つだと思うからだ。

自然数i∈{1,2,…,n}に対して [i]∈Znをその第j成分がδj⁢iとなるものと定義する。 すなわち、[i]は第i成分が1でそれ以外の成分が0であるようなZnの元である。

定義 21.

Rn=ℝ⁢({vk}k∈Zn)とする。即ちk∈Znを添え字とする不定元vk全体から生成されるℝ係数の有理式環のことである。また写像di:Rn→Rn⁢(i=1,2,…,n)を

di⁢(1)=0,di⁢(vk)=vk+[i],di⁢(f⁢g)=di⁢(f)⁢g+f⁢di⁢(g)

充たすものとして定義する。このようなdiは一意的に定まり、di⁢dj=dj⁢diを充たす。 このとき、組(Rn,{di}i=1,2,…,n)をn変数微分のモデル代数と呼ぶことにする。

Cn={s:Zn→ℤ}
Fn={s∈Cn∣card⁢(supp⁡(s))<∞}

各s∈Fnに対して単項式Δ⁢(s)∈Rnを

Δ⁢(s)=∏k∈Zn(vk)s⁢(k)

と定義する。

supp⁡(s)={k∈Zn∣s⁢(k)≠0}={k⁢(1),k⁢(2),…,k⁢(l)}

と置けば、

Δ⁢(s)=(vk⁢(1))s⁢(k⁢(1))⁢(vk⁢(2))s⁢(k⁢(2))⁢⋯⁢(vk⁢(l))s⁢(k⁢(l))

と書くこともできる。 a,b∈ℕに対してFnの部分集合を

I⁢(a,b)={s∈Fn∣1≤−s⁢(0)≤a,k≠0⟹s⁢(k)≥0,∑k≠0σk⁢s⁢(k)=b}

と定義する。 また、{Δ⁢(s)}s∈I⁢(a,b)から生成されるℝ線形空間をS⁢(a,b)と書くことにする。各不定元vkや不定元の冪らはもちろん線形独立なので、{Δ⁢(s)}s∈I⁢(a,b)から自由生成されるℝ線形空間とRnの中で{Δ⁢(s)}s∈I⁢(a,b)が張るℝ線形空間は標準的に同型になる。 s∈I⁢(a,b)についてΔ⁢(s)はおよそ次のような形をしている。

(vk1)s⁢(k1)⁢(vk2)s⁢(k2)⁢⋯⁢(vkl)s⁢(kl)v0s⁢(0)

補助的に

J⁢(b)={s∈Fn∣s⁢(0)=0,k≠0⟹s⁢(k)≥0,∑k≠0σk⁢s⁢(k)=b}

と定義しておく。 I⁢(a,b)とJ⁢(b)は共に有限集合であることに注意しよう。

補題 22.

t∈I⁢(a,b)とする。このとき任意のi∈1,2,…,nについて

di⁢(Δ⁢(t))∈S⁢(a+1,b+1)

である即ち、I⁢(a+1,b+1)で添え字つけられた、あるℝの列{Ps}s∈I⁢(a+1,b+1)が存在して

di⁢(Δ⁢(t))=∑s∈I⁢(a+1,b+1)Ps⋅Δ⁢(s)

となる。さらに各Psは整数であり、一意的である。

証明.

Δ⁢(t)は次のように書ける

Δ⁢(t)=vk⁢(1)⁢vk⁢(2)⁢⋯⁢vk⁢(l)v0p

ここで、k⁢(1),k⁢(2),…,k⁢(l)∈Znは重複を許しており、∑i=1lσkl=bであり、1≤p≤aである。さて、

di⁢(Δ⁢(t)) =di⁢(vk1⁢vk2⁢⋯⁢vklv0p)
=di⁢(vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl)⁢v0p−vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl⁢di⁢(v0p)v02⁢p
=di⁢(vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl)⁢v0pv02⁢p−vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl⁢di⁢(v0p)v02⁢p
=di⁢(vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl)v0p−p⁢vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl⁢di⁢(v0)v0p+1

であり、また、

di⁢(vk1⁢vk2⁢⋯⁢vkl)v0p∈S⁢(a+1,b+1)

であることとその係数が整数であることは簡単に分かるので、定理は成り立つ。Psの一意性は線形独立性から分かる。 ∎

この補題を帰納的に用いることで次のことがわかる。

命題 23.

k∈Znはσk=mを充たすとする。このとき有理式

(d1)k1⁢(d2)k2⁢⋯⁢(dn)kn⁢(1v0)

はS⁢(m+1,m)に属する。即ち、I⁢(m+1,m)で添え字つけられた、ℝの列{Γs}s∈I⁢(m+1,m)が存在して

(d1)k1⁢(d2)k2⁢⋯⁢(dn)kn⁢(1v0)=∑s∈I⁢(m+1,m)Γs⋅Δ⁢(s)

となる。さらに各Γsは整数であり、一意的である。

References

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