ホイットニーの拡張定理
この文章ではWhitneyの拡張定理を紹介する。 この定理はユークリッド空間の閉集合の上で定義された(Whitneyの意味での)微分可能関数が実は ユークリッド空間の通常の意味での微分可能関数の制限であるということを述べている定理である。 Whitneyの微分可能性はテイラーの定理をアナローグして得られる自然な閉集合上の微分概念である。 その意味で微分可能性を閉集合の上へ一般化しても、既存の範疇を超えていないことを教えてくれる定理である。 この定理はしばしば有用な応用を与える。 例えばSardの定理の微分可能性の仮定を落とした場合の反例の構成に使える。 応用はさておくとしてもこの定理は知っているだけでも大変ありがたいものであると私は考える。 しかしながらこの定理の強力さに対してその証明が述べられているのは原論文だけであり、その論文は1935年に書かれたこともあって、現代的にはとても読みづらいものになってしまっている。 そこでこの文章では原論文の証明をなぞりつつも、 可能な限り読みやすい証明を提供する。 その目的の一環がおまけの章にある微分のモデル代数である。 この概念はこの文章だけのものなので他の場所で断りなく用いると 恥ずかしい思いをするかもしれないが、それはさておき、 微分のモデル代数は微分公式を可微分関数を用いて証明するのではなく抽象的な代数操作によって証明するために導入した。
1 Preliminaries
1.1 多重指数記法
この文章では
と定義する。 各に対して、その成分をとしたとき
と定義し、
と定義する。この文章では偏微分の順序を気にしない関数しか出てこないので、の定義に出てくる偏微分の順序は我々も気にしないことにする。 また、
と定義し、 に対して
と定義する。
に対して
と定め、
とする。のとき、その二項係数を
と定義する。 簡単にわかることだが、となる。 また、のとき、
と定義する。このときちゃんととなる。
補助的にに対して
と定義する。もちろんである。 多変数の場合のライプニッツ則は多重指数記号を用いると1変数の場合と同じように述べることができる。
補題 1.
をの開集合とする。 二つの級関数とについて
が成り立つ。
1.2 その他基本的な定義
以下の補題は初等的に見えるが、拡張定理を証明する上で本質的である。
命題 2.
をの開区間とする。 連続写像との閉集合、、は以下を充たすとする。 任意のに対してが存在して
-
(1)
かつならば
である。
-
(2)
かつならば導関数が存在し、
である。
このときは上の任意の点において微分可能でである。
証明.
任意のと 任意のに対してが存在して任意のならば
を示せばよい。 話を簡単にするためにとする。 のときに目的の式を示せばよい。 ここでをで、となるものとする。 が閉集合なのでこのようなは存在する。 また、である。 からは開区間で微分可能なので中間値の定理から
となるが存在する。 さてこのとき、
となり、また、
なので
である。さて及びの定義から、なのでかつである。また、の定義からかつなので 結局ならば
を得る。 ∎
をの部分空間とする。
定義 3.
とする。 が上Whitneyの意味で級であるとは上の関数列 が存在して、であり、任意のと について
で定義されるが次を充たすときにいう: 任意にの点と任意にを与えたときにが存在して、かつならば
を充たす。
このときを、この文章では、Whitney導関数と呼ぶことにする。
注意.
各は連続であることに注意しよう。の取り方は一意的でないことに注意しよう。
定義 4.
関数はWhitneyの意味で級であり、はそのWhitney導関数とする。 このときととに対して
と定義する。
命題 5.
、とする。このとき
が成り立つ。
証明.
多項式に関するテイラー展開から
を得る。よって
が成り立つ。 ∎
補題 6.
とする。このとき任意のに対してが存在して
となる。
証明.
の中心はとしてもよい。 なのでに対してとなるが存在する。 このとき
である。 ∎
2 Whitney Decomposition
定義 7 (二進立方体).
の部分集合はで、
, と書けるものを二進立方体と呼び、をの世代と呼ぶことにする。 世代がの二進立方体全体をで表すことにする。
命題 8.
をの開集合とすると、次のような二進立方体の高々可算な列が存在する。
-
(1)
-
(2)
-
(3)
-
(4)
とが隣あっていれば、
-
(5)
各は高々個のの元としかとなりあわない。
-
(6)
とする。各についてをと同じ中心を持ち、辺の長さがとなる閉立法体とする。 すなわち、である。このときは高々個のほかのの元としか交わらない。
-
(7)
証明.
任意のに対して
と置く。すると
である。
とし、次に
と定める。 に対してと同じことが成り立つ。 つまり、
が成り立つ。まずはこのことを示そう。 とする。 まず、に注意しよう。 そしてをとると
なので上で今言ったことは成り立つ。
を考える。 列について、となるものは存在しないことに注意しよう。 何故ならならばなのでから
がわかる。よってを含むの元はたかだか有限個である。 このことから、に包含関係を順序としてZornの補題が適用できる。 の極大元をとしよう。これが条件を満たすことを示そう。
まずについてはの定義から明らかである。
についてはの定義との極大性から直ちに従う。
は先ほど示した。
を示そう。とが隣り合っていればに注意しよう。 このとき、から
となる。比はの整数べきのはずなので である。 これからが従う。
を示そう。を一つ固定する。 を考える。について、
である。とすれば、
である。また、とすると
であり、また、であるからが従う。
を示そう。の半径はで、なので、とが交わるならば、とは隣り合っている。
補題 9.
先の命題と同じ記号を用いる。このとき
が成り立つ。
証明.
からわかる。 ∎
3 Whitney Partition of unity
この節ではWhitney decompositionを用いて、微分の大きさも制御できるような単位の分割を構成することが目的である。
をのWhitney分解であるとする。 そして 上で恒等的にの値をとり、の外ではの値をとるような関数
を考える。 の中心をとして、
と定義する。 なのでは局所有限である。よって
と定義できる。 そして
と定義する。 任意のに対して とし、 とする。
は全て立方体であり、と隣り合うの元もの大きさで制御できることと、二進立方体に隣接する、と世代が高々二個しか違わない二進立方体の配置は有限個しかないので以下のことが成り立つ。
補題 10.
あるが存在して、任意のに対して
が成り立つ。
以下ではこの文章の一番最後の節に書いたおまけの節の結果を用いる。読むのが面倒な時は命題13を認めて次の説に進むのが良い。
おまけの節の結果に、を代入した結果を用いる。 命題23から次のことがわかる。
補題 11.
を先の補題にでてきたものとする。 任意のと 任意のに対して
証明.
まず、 がわかる。そして 命題23より
がわかるが、の定義より、
となる。 ここで、はで、についてはで定義されるの元である。 に対して とすると
となる。 さらにとすると
なのでについて
がわかる。 これらのことから、補題が成り立つことがわかる。 ∎
補題 12.
任意のに対してあるが存在して、任意のについて
証明.
なので
となる。先の補題から
よって、
とおけば命題の主張は成り立つ。 ∎
以上の議論をまとめると次のことがわかる。
命題 13.
は先に定義された関数とする。このとき次のことが成り立つ。
-
(1)
任意のについて
-
(2)
-
(3)
任意のに対してあるが存在して、任意のについて
が成り立つ。
4 Whitney Extension
この節ではWhitneyの拡張定理を証明する。まず最初に微分可能性の仮定が有限な場合を証明する。
定理 14.
で、はの閉集合とし、をWhitneyの意味で級とし、を、そのWhitney導関数とする。 このとき級関数が存在して 任意のとに対して
が成り立ち、上では級となる。
証明.
を構成して、 任意のと任意のおよび任意のについて、あるが存在して、 がを充たすならば
を示せばよい。 何故ならば、 をの軸に平行な直線に制限して、 命題2を用いれば、 任意のとについて がわかるからである。
まずを構成する。 をのWhitney分解とし、をそのWhitneyの単位の分割とする。また、とする。 そして を
となるとする。 これらを用いて
と定義する。 以下では、初めに述べた主張を示そう。 に対しては命題13に現れる定数とする。 さらに以下のように定数を定義する。
任意にを与える。そしてを
とおき、 をならば、について
を満たすように取り、 を、でならば任意のについて
を充たすように取る。 そしてを
と定義する。 いまからがを充たすならば
を示す。
とし、をでかつとなるものとする。このようなは存在する。なぜならだからである。より、でもあるので上のようなはも充たす。
そしてなので
であるから、特にとなり、
がわかる。 さて
から
| (1) |
がわかる。 同様にして
| (2) |
がわかる。 さて、からから となる。よって、との定義を思い出すと、
となる。 また、 より、 であり、の定義とを思い出すと、から
| (3) |
を得る。
そして
| (4) |
と以上の評価から結局
となるので、
| (5) |
がわかる。
さて、 となるを、番号付けてとする。 ここで、となるをとる。すると
がわかる。ここで、かつ、なので
で、またなので 結局、かつであるから 任意のについて
| (6) |
が成り立つ。
に注意しよう。
を階微分すると
を得る。 を踏まえて、
を得る。また、
と
が成り立つことに注意しよう。 であり、また および が成り立つことや、 , や、とかWhitneyの単位の分割の性質 を踏まえると
がわかる。この式と から
がわかる。
∎
定理 15.
をの閉集合とし、をWhitneyの意味で級とし、をのWhitney微分とする。このとき上の級関数が存在して 任意のと任意のについて
が成り立つ。
証明.
について
と定義する。 をのWhitney分解とし、をそのWhitneyの単位の分割とする。とする。 適当にを取り、とする。 そして各について
と定義する。ここでは命題13で述べられている定数である。 そしてさらに を
| (1) | |||
| (2) |
の両方を充すような実数の列とする。
各について
となる風にを定める。 そして を
となるとし、関数を
と定義する。
定理を示すには、任意のと任意のと任意のを与えたときにが存在して ならば
となることを示せばよい。 以下ではこれを示してゆく。 自然数を
| (3) | |||
| (4) | |||
| (5) |
を充たすものとする。 をと取る。 としよう。
を
となるようにとる。するとなのでである。 また、となるについてなのででもある。 そしてとなるをとれば
なのでとなりがわかる。
以上のことから
がわかる。 ところで、 なので
が成り立ち、また、
なので
を得る。 また、の定義から
なので結局
| (8) |
がわかる。 ∎
以上の二つをまとめると以下のようになる。
定理 16.
とし、また、 はの閉集合とする。 関数はWhitneyの意味で級で、はそのWhitney導関数とする。このとき級関数が存在して 任意のと任意のについて
が成り立ち、上では級となる。
この定理がいわゆるWhitneyの拡張定理である。 Whitneyはより強く、上で級になるような拡張を構成しているが、使わないので細かいことは省略する。
5 応用: より大きい指数でヘルダー連続になる関数
定義 17.
写像が-Hölderであるとはあるが存在して任意のに対して
を充すときにいう。
命題 18.
をの閉集合とし、 として、さらに、 写像は-Hölderとする。 そして、 各について、 上の関数族を、ならばと定義し、と定義する。 このとき、は、のWhitney導関数になり、 はWhitneyの意味で 級関数になっている。
証明.
簡単に確かめられる。 ∎
このことと、Whitneyの拡張定理から次のことがわかる。
命題 19.
閉集合上で定義された-Hölder写像に対して、 上の 級関数で、 任意のについて、
となるものが存在して、
を充す。
命題 20 (Sardの定理にまつわる例).
写像で、が一次元ルベーグ測度で正になるものが存在する。
証明.
写像を
と定義する。を充すことに注意しよう。 と定め、 一般に、が定義されたとき、 と定義する。 そして
と定義し、
とする。はカントール集合と同相である。 各に対して、かつ でならば、 任意のに対してであるから、に対して 無限列で
となるものがただ一つ定まる。これを用いて、 写像を
と定義する。 さて、について、番目で初めてとなったとすると、
となる。 そして
となるので、として
が成り立つ。 また、任意の無限列に対して となるが存在するので、 である。なので、 このに先の命題を適用し、 任意のとに対して
で となる を得ると、なので、
となり、は級では正測度を持つ。 ∎
6 おまけ・微分公式と微分のモデル代数
この章では微分のモデル代数を導入し、ある特定の微分公式を証明する。 これを導入する目的は文章の冒頭で述べたとおり、 わかりやすさの担保であるが、もう一つの理由として 微分公式に現れる係数が普遍的であることが簡単にわかるためである。 例えば簡単な微分公式である
についても、の選び方によっては であったり、であったりするわけである。 こういう曖昧さを避けるために微分操作を抽象化して微分公式を証明したいと思った。 しかしながら以下で述べる微分の代数化、抽象化はむしろ万人がある種の微分公式を証明する時に無意識にやっているのだと私は思う。微分可能関数を任意にとってもそれは「不定元」でしかないし、微分もライプニッツ則を充たす準同型でしかないわけである。 だからと言って今から導入する概念が無駄かというと、(全否定もできないけれど)そうではないと思う。人が無意識に行う推論、操作を発見し具象を与えることもまた数学の営みの一つだと思うからだ。
自然数に対して をその第成分がとなるものと定義する。 すなわち、は第成分がでそれ以外の成分がであるようなの元である。
定義 21.
とする。即ちを添え字とする不定元全体から生成される係数の有理式環のことである。また写像を
充たすものとして定義する。このようなは一意的に定まり、を充たす。 このとき、組を変数微分のモデル代数と呼ぶことにする。
各に対して単項式を
と定義する。
と置けば、
と書くこともできる。 に対しての部分集合を
と定義する。 また、から生成される線形空間をと書くことにする。各不定元や不定元の冪らはもちろん線形独立なので、から自由生成される線形空間との中でが張る線形空間は標準的に同型になる。 についてはおよそ次のような形をしている。
補助的に
と定義しておく。 とは共に有限集合であることに注意しよう。
補題 22.
とする。このとき任意のについて
である即ち、で添え字つけられた、あるの列が存在して
となる。さらに各は整数であり、一意的である。
証明.
は次のように書ける
ここで、は重複を許しており、であり、である。さて、
であり、また、
であることとその係数が整数であることは簡単に分かるので、定理は成り立つ。の一意性は線形独立性から分かる。 ∎
この補題を帰納的に用いることで次のことがわかる。
命題 23.
はを充たすとする。このとき有理式
はに属する。即ち、で添え字つけられた、の列が存在して
となる。さらに各は整数であり、一意的である。
References
- [1] 薮田公三,特異積分,岩波数学業書,2010.
- [2] L. Grafakos, Classical fourier analysis, Springer, GTM249, 2014.
- [3] H. Whitney, A function not constant on a connected set of critical points, Duke. Math. J., vol.4(1935), pp514–517.
- [4] H. Whitney, Analytic extension of differentiable functions defined in closed sets, Trans. Amer. Math. Soc., vol.36, No.1(1934), pp63–89.