極限集合の話
この文章では極限集合を定義し、その基本的な性質を紹介する(命題20、21、系22)。この極限集合とその基本的な性質はホイットニーの埋め込み定理を証明する際によく利用されるが、証明を見たことがなかったので、証明をつけてみた。 極限集合は多様体の間の写像の場合に利用されるところしか見たことがないのだが、厳密に証明すると写像の定義域がコンパクトな局所コンパクト距離化可能空間で、写像のコドメインが距離化可能空間である場合に証明できることがわかるのでそのように証明している。また、やろうと思えばもっと広いクラスの空間の間の写像で証明ができると思われる。 しかしながらそのような一般化に意味があるかといえば特に意味はなく、ただ使われている道具がハッキリする程度の効能しかないように私は思うし、普通の多様体は距離化可能であるということを宣伝するためにも距離化可能空間程度の仮定にとどめておく。
コンパクトな位相多様体は距離化可能であることを強く注意しておく。111一般に位相多様体において、パラコンパクト性と距離化可能性は同値である。このことはウリゾーンの距離化可能定理や、コンパクトな位相多様体には常にリーマン計量が存在することから分かる。222リーマン計量から多様体の位相と両立する距離がおなじみの方法で構成できる。多様体の位相に関するとても強い性質なのだが、あまり注意されてないように思うので強く注意しておく。恐らくリーマン計量の存在性から従うことなのであまり強く注意しないのかもしれない。
この文章の主要部分はセクション3である。基本事項がわかっている読者はここだけ読めばよい。
この文章では位相空間の点の近傍系をで表し、の部分集合の閉包を、の内核をで表す。
1 準備
定義 1 (点列).
位相空間内の点列とは写像のことである。この文書では簡単になどと書く。
定義 2 (部分列).
内の点列が点列の部分列であるとは狭義単調な写像が存在して
と表されることである。すなわちはという形をしている。
定義 3 (点列の収束).
内の点列がの点に収束するとは
が成り立つことである。がに収束することをと書いたり、と書いたりする。
距離空間においては in と in は同値である。
定義 4.
位相空間の部分集合と点についてがの集積点であるとは
が成り立つことである。の集積点全体をで表すことにする。
以下の二つの補題は距離空間の基本的な命題であるが、一応紹介しておく。証明は省略する。
補題 5.
距離空間とその部分集合について以下は同値である。
-
(1)
はの閉集合。
-
(2)
内の点列がとをみたすならば
補題 6.
距離化可能空間の間の写像について以下は同値である。
-
(1)
は連続写像
-
(2)
内の点列ついてならば、内の点列はを充たす。
-
(3)
の部分集合について
注意.
補題6についてとは一般の位相空間の間の写像でも同値になる。
定義 7.
連続写像が埋め込みであるとは、が同相写像となることをいう。 つまり、が単射で、が連続ということである。
2 点列の集積の概念について
まずは数列に関する二つの集積点の概念を紹介しよう。
このセクションではは距離化可能空間上で考えているものとする。
定義 8.
が「点列として集積点を持つ」とは
が成り立つことである。
定義 9.
ちなみにが「集積点を持つ」とは
つまり集合として集積点を持つということである。
注意.
以降では「点列として集積点を持つ」という概念しか使わず、集合として集積点を持つ方は使わない。 点列が集積点を持つと言った場合には普通は「点列として集積点を持つ」という意味で解釈すると思うが、集合として集積点を持つ意味と紛らわしいので違いを強調するために一応両方ともに定義として紹介した。上の二つの定義はもちろん同値ではない。(考えてみよ。)
また、点列として集積点を持つことは同相写像で保たれる性質であることに注意しよう。
以下ではまず点列として集積点をもつことの必要十分条件を決定して行く。
命題 10.
以下は同値である。
-
(1)
が点列として集積点を持つ
-
(2)
または
証明.
まずを証明しよう。 そのためにはとを 仮定してを導けばよい。 まずから
が成り立つ。 この点は集合には属しない。 なぜなら今は
を仮定しているからである。よって
である。即ちなのでが導かれた。
次にを証明しよう。 まず、ならば、から点を取ればこれは集合 の集積点であることから
となることがわかる。
次にならばについて、もちろん
となるのでいづれにせよが証明された。 ∎
命題 11.
が点列として集積点を持つ は収束する部分列を持つ。
証明.
まず、が収束する部分列を持つとして点列として集積点を持つことを示そう。 部分列は点に収束すると仮定する。ここでは狭義単調関数である。 はの収束点なので
よって特に
なのでつまりは点列として集積点を持つ。
逆を示そう。そのために定理10を利用する。の位相と両立する距離の一つをとする。
もしならばここから点をとって、となるように 部分列を取れば、これはに収束する。
もしならば となる部分列(これは定数列である。)を取ればこれは点に収束する。もちろんは狭義単調増加関数である。 ∎
命題 12.
が点列として集積点をもつ
証明.
(の証明)
仮定から単調増加数列をとなるようにとることができる。 はコンパクトなのでの部分列で収束するものが存在する。 ところでそもそもはの部分列なのでは収束する部分列を持つことが言えた。
(の証明)
が点列として集積点をもつと、収束する部分列が存在する。ここでは単調増加写像である。 この部分列の収束点をとし、
とするとはコンパクトである。さらに任意のについてなので
が成り立つ。 ∎
以上を合わせて以下を得る
命題 13.
距離空間内の点列について以下は同値である。
-
(1)
は点列として収束する。
-
(2)
または
-
(3)
は収束する部分列を持つ。
-
(4)
次のセクションで利用するのは主に点列として収束することの否定である。次のように定義して用いる。
定義 14.
をが点列として集積点を持たないことと定義する。
は単に点列として集積点を持つことの否定なので、命題13から直ちに以下の同値性が従う。
命題 15.
距離空間内の点列について以下は同値である。
-
(1)
-
(2)
かつ
-
(3)
の任意の部分列は収束しない。
-
(4)
主にとを利用することになると思う。
注意.
定義を見ればわかるが、はを一点コンパクト化したときに無限遠点に収束するのと同値である。
また、は距離には依存せず、位相に依存する性質であることに注意しよう!
3 極限集合
このセクションでは をコンパクトかつ局所コンパクトな距離化可能空間とし、を距離化可能空間とする。
注意.
このセクションで扱う極限集合は主に多様体の理論で利用されるし、その補完としてこの文章を書いている。 このとに関する仮定はコンパクトな位相多様体も満たすことに注意しよう。 即ち、コンパクトな位相多様体は距離化可能である。コンパクト性の仮定が気になるかもしれないが、普通多様体論で扱われる多様体はコンパクトである。パラコンパクトの方が親しみがある人もいるかもしれないが、パラコンパクトな位相多様体はコンパクト位相多様体の直和になってるし、およそ、連結多様体やもしくは高々可算個の連結多様体の直和にしか興味がない場合が多いのでコンパクト性が突飛な仮定というわけでもない。 しかしながらコンパクトではないような連結位相多様体は存在するし、そういった連結位相多様体は距離化不可能であるといったことも注意しておこう。
以下の命題の証明は省略する。
命題 16.
のコンパクト部分集合の列で
の二つを充たすものが存在する。 またこのときの任意のコンパクト部分集合についてあるが存在して となることに注意しよう。
注意.
この命題内の性質を充たすが存在する空間のことをHemicompactと呼ぶ。 一般にコンパクトな局所コンパクトハウスドルフ空間はHemicompactである。
命題16の後半の注意からすぐに次のことがわかる。
命題 17.
以下で定義する極限集合がこの文書の主役である。この集合の振る舞いを見ることで写像の性質がわかったりする。
定義 18.
連続写像に対し
と定義する。これをの極限集合と呼ぶ。
まず簡単に次のことがわかる。
命題 19.
はの閉集合
証明.
命題 20.
を単射と仮定する。このとき
証明.
(の証明)
対偶を証明しよう。即ち、を仮定してが埋め込みでないことを示す。 今、を取ると、 かつとなる内の点列が存在し、また、となるが存在する。 であることからは収束しない。 よって内の点列はにも関らず、
となるのでは連続ではない。よって特には埋め込みではない。
(の証明)
任意にを取る。すると 内の点列が存在してに収束する。 さてとする。という仮定とからがわかる。よってがわかる。すなわちは点列として集積点を持つ。 よって収束する部分列が存在する。の収束点をとする。 写像の連続性からがわかり、さらにであり、収束列の部分列は元の列の収束点に収束するので、である。 つまりである。 以上からの部分列を適当にとればとなることがわかった。 は内の点列であるから
がわかるのでは連続である。 ∎
命題 21.
連続関数について
証明.
(の証明)
の定義から自明。
(の証明)
内の点列はを充たすと仮定する。 そして点列をとなるように定義する。
もしが収束する部分列を持つならばの連続性からその部分列の収束点についてになるので がわかる。
もしが収束する部分列を持たない、 すなわちならばであり、仮定からなのでである。
いづれにせよなのではの中で閉集合である。 ∎
結果として次のことがわかる。
系 22.
を単射と仮定する。このとき
ならばは閉写像でかつ埋め込みになっている。
References
- [1] 志賀浩二, 多様体論I, 岩波書店,岩波講座基礎数学幾何学i, 1976