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ブラウワーの不動点定理

電波通信
HTML変換日:2026年7月26日

ここではBn={x∈ℝn∣‖x‖≤1}、Sn={x∈ℝn∣‖x‖=1}とする。 この文章の目的は連続写像f:Bn→Bnは常に不動点を持つことを主張するブラウワーの不動点定理を証明することである。

定義 1 (レトラクト).

位相空間Xの部分集合AがXのレトラクトであるとは連続写像f:X→Aが存在して任意のx∈Aについてf⁢(x)=xとなることをいう。このようなf:X→Aをレトラクションという。

命題 2.

次の二つの主張は同値である。

  1. (1)

    (ブラウワーの不動点定理)任意の連続写像f:Bn→Bnは不動点を持つ。

  2. (2)

    (No retraction theorem)Sn−1はBnのレトラクトではない。

証明.

[(1)⟹(2)の証明]

対偶を示す。Sn−1がBnのレトラクトとしてf:Bn→Sn−1をレトラクションとする。 そしてg⁢(x)=−f⁢(x)と定義する。このgには不動点が存在しない。実際g⁢(Bn)=Sn−1なので不動点pが存在するならばp∈Sn−1でなければならない。しかしg⁢(p)=−pも成り立つので矛盾する。

[(1)⟹(2)の証明終了]

[(2)⟹(1)の証明]

対偶を証明する。不動点を持たない連続写像f:Bn→Bnが存在すると仮定する。 即ちx∈Bnについてf⁢(x)≠xということである。 さてe⁢(x)=x−f⁢(x)と定義するとe:Bn→ℝnは連続である。 さらにL:Bn×ℝ→ℝnをL⁢(x,t)=f⁢(x)+t⁢e⁢(x)と定義すればこれもやはり連続である。 今、tに関する二次方程式‖L⁢(x,t)‖2=1を考える。つまり方程式

(1) ‖e⁢(x)‖2⁢t2+2⁢⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩⁢t+‖f⁢(x)‖2−1

を考える。係数がxの関数になってることに注意しよう。いまはこれをtの方程式として見ている。また、(1)の解はxに依存することに注意せよ。 そして、この二次方程式の二つの解は

1‖e⁢(x)‖2⁢(−⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩±⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩2−‖e⁢(x)‖2⁢(‖f⁢(x)‖2−1))

である。さていま、‖f⁢(x)‖≤1が常に成り立つので、−‖e⁢(x)‖2⁢(‖f⁢(x)‖2−1)≥0である。よって

⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩2−‖e⁢(x)‖2⁢(‖f⁢(x)‖2−1)≥|⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩|

なので、方程式(1)の解は実数解であり、非負の解と非正の解を持つ。そのうち、非負の解をT⁢(x)としよう。T⁢(x)は明示的に

T⁢(x)=1‖e⁢(x)‖2⁢(−⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩+⟨f⁢(x),e⁢(x)⟩2−‖e⁢(x)‖2⁢(‖f⁢(x)‖2−1))

と書ける。この式から分かるように、写像T:Bn→ℝは連続である。 さて、x∈Sn−1のとき、L⁢(x,1)=xなのでT⁢(x)=1である。 以上から、g:Bn→Sn−1をg⁢(x)=L⁢(x,T⁢(x))と定義するとこれは連続写像で、x∈Sn−1のとき g⁢(x)=L⁢(x,T⁢(x))=L⁢(x,1)=xとなり、レトラクションになっている。つまりSn−1はBnのレトラクトになっている。

[(2)⟹(1)の証明終了] ∎

この命題からブラウワーの不動点定理を示すためにはSn−1がBnのレトラクトではないことを示せばよい。 この主張をさらに換言する。

命題 3.

レトラクションf:Bn→Sn−1が存在するならば、 滑らかなレトラクションg:Bn→Sn−1が存在する。ここでgがBnで滑らかというのは、Bnの十分小さい開近傍でgが滑らかという意味である。

証明.

u⁢(x)=f⁢(x)−xと定義する。 ‖u⁢(x)‖≤2に注意しよう。 f|Sn−1=1Sn−1なのでu|Sn−1=0なのであるδ∈(3/4,1)が存在して

δ≤‖x‖≤1⟹‖u⁢(x)‖<4−1

となる。 また、ワイエルストラスの多項式近似定理から各成分が多項式であるような写像P:ℝn→ℝnが存在して

‖x‖≤1⟹‖P⁢(x)−u⁢(x)‖<4−1

となる。また多項式Q:ℝ→ℝで

r∈[0,δ]⟹3/4≤Q⁢(r2)≤1
r∈[δ,1]⟹‖Q⁢(r2)‖≤1
Q⁢(1)=0

を充たすものが存在する。 さて、v⁢(x)=x+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)と定義するとg:Bn→ℝnは連続で、Bnで滑らかである。 更に‖x‖∈[0,δ]ならば

‖v⁢(x)‖=‖x+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)‖=‖x+f⁢(x)−f⁢(x)+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)‖=‖f⁢(x)−(f⁢(x)−x)+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)‖=
‖f⁢(x)−(f⁢(x)−x)+Q⁢(‖x‖2)⁢(f⁢(x)−x)−Q⁢(‖x‖2)⁢(f⁢(x)−x)+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)‖=
‖f⁢(x)−(f⁢(x)−x)+Q⁢(‖x‖2)⁢(P⁢(x)−f⁢(x)+x)+(Q⁢(‖x‖2)−1)⁢(f⁢(x)−x)‖≥
‖f⁢(x)‖−|Q⁢(‖x‖2)|⁢‖P⁢(x)−(f⁢(x)−x)‖−|1−Q⁢(‖x‖2)|⁢‖f⁢(x)−x‖

となる。‖P⁢(x)−(f⁢(x)−x)‖<1/4、‖f⁢(x)‖=1、|Q⁢(‖x‖2)|≤1であり、 ‖x‖∈[0,δ]ならば3/4≤Q⁢(‖x‖2)≤1なので0≤1−Q⁢(‖x‖2)≤1/4である。よって

‖v⁢(x)‖≥‖f⁢(x)‖−|Q⁢(‖x‖2)|⁢‖P⁢(x)−(f⁢(x)−x)‖−|1−Q⁢(‖x‖2)|⁢‖f⁢(x)−x‖≥1−14−24=14

つまり‖v⁢(x)‖≥1/4

一方、‖x‖∈[δ,1]ならば

‖v⁢(x)‖=‖x+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)‖=‖x+Q⁢(‖x‖2)⁢P⁢(x)+Q⁢(‖x‖2)⁢(f⁢(x)−x)−Q⁢(‖x‖2)⁢(f⁢(x)−x)‖
≥‖x+Q⁢(‖x‖2)⁢(P⁢(x)−(f⁢(x)−x))+Q⁢(‖x‖2)⁢(f⁢(x)−x)‖
≥‖x‖−|Q⁢(‖x‖2)|⁢(‖P⁢(x)−(f⁢(x)−x)‖+‖f⁢(x)−x‖)

となる。|Q⁢(‖x‖2)|≤1、‖P⁢(x)−(f⁢(x)−x)‖≤1/4であり‖x‖∈[δ,1]なので‖f⁢(x)−x‖≤1/4である。よって

‖v⁢(x)‖≥‖x‖−|Q⁢(‖x‖2)|⁢(‖P⁢(x)−(f⁢(x)−x)‖+‖f⁢(x)−x‖)
≥δ−(14+14)≥34−24=14

つまり‖v⁢(x)‖≥1/4である。 以上のことからx∈Bnならば‖v⁢(x)‖≠0であるからg:Bn→Sn−1を

g⁢(x)=v⁢(x)‖v⁢(x)‖

と定義でき、これはBn上で滑らかである。x∈Sn−1ならばQ⁢(‖x‖2)=Q⁢(1)=0なのでv⁢(x)=x、 つまりg⁢(x)=xとなりg:Bn→Sn−1は求めるものになる。 ∎

定理 4.

滑らかな関数f:Bn→Sn−1でf|Sn−1=1Sn−1となるものは存在しない。

証明.

そのような関数が存在したとして矛盾を導く。g⁢(x)=f⁢(x)−xと置く。

F⁢(x,t)=x+t⁢g⁢(x)=x+t⁢(f⁢(x)−x)=(1−t)⁢x+t⁢f⁢(x)

という連続関数を考えるとこれはSn−1を固定する、1Bnとfをの間のホモトピーである。このF⁢(x,t)はxとf⁢(x)を結ぶ直線の内分点である。さてBnはコンパクトでgはなめらかなのでg⁢(x)=f⁢(x)−xは特にリプシッツである。gのリプシッツ性を担保する定数をL>0とすると、F⁢(x,t)=F⁢(y,t)を仮定したときにx−y=t⁢(g⁢(y)−g⁢(x))なので

‖x−y‖≤t⁢‖g⁢(y)−g⁢(x)‖≤t⁢L⁢‖x−y‖

となる。よって0≤t<L−1ならばFt⁢(x)は単射である。さてF⁢(x,t)のxについてのヤコビ行列を考えると

Jx⁢(Ft⁢(x))=En+t⁢Jx⁢(g⁢(x))

となる。detは連続関数なのでt0を十分小さくとればt∈[0,t0]のときdetJx⁢(F⁢(x,t))>0が成立する。t0<L−1と取っておく。 さていまからt∈[0,t0]のときF⁢(x,t)がxについて全単射になっていることを証明しよう。UをBnの内点、つまり

U={x∈ℝn∣‖x‖<1}

とする。逆関数定理からFt⁢(U)はℝnの開集合である。 さていまa∉Ft⁢(U)となるBnの点を任意に取る。 これの逆像の存在が言えればよい。 b∈Ft⁢(U)となるBnの点を適当に取る。 するとFt⁢(U)⊂Bnからaとbを結ぶ線分[a,b]はBnの中に入っており、[a,b]が連結であることから[a,b]∩Bdry⁢(Ft⁢(U))≠Øである。この集合の中からcを取る。Ft⁢(Bn)はコンパクトで、特に閉集合であるから

Bdry⁢(Ft⁢(U))⊂CL⁢(Ft⁢(U))⊂Ft⁢(Bn)

となるのでc=Ft⁢(x)となるx∈Bnが存在する。c∉Ft⁢(U)であるからx∈Sn−1となる。ゆえにFtがSn−1を動かさないことからc=Ft⁢(x)=xとなる。つまりc∈Sn−1が分かる。 Ft⁢(U)がℝnの開集合であるからBdry⁢(Ft⁢(U))∩Ft⁢(U)=∅なので、特にc≠bである。 そしてc∈[a,b]とc∈Sn−1からa=cがわかり、結局a=Ft⁢(x)がわかるのでFtは全射である。 そして

I⁢(t)=∫Bndet(F⁢(x,t))⁢d⁢x1⁢d⁢x2⁢⋯⁢d⁢xn

と定義すると、Ft⁢(Bn)=Bnと変数変換公式からt∈[0,t0]のときI⁢(t)=ℒn⁢(Bn)>0 である。ところでI⁢(t)はtの多項式であり、しかもI⁢(t)は[0,t0]上で定数なので、[0,1]上で定数である。 つまりt∈[0,1]上で

(2) I⁢(t)=ℒ⁢(Bn)>0

となる。 しかしながらF1⁢(x)=f⁢(x)∈Sn−1から

⟨f,f⟩=1

が分かるので

⟨∂f∂xi,f⟩=0

である。つまりf⁢(x)はJx⁢(f)⁢(x)の転置行列の固有値が0の固有ベクトルになっている。0を固有値にもつ行列の行列式は0なので

det(Jx⁢(f)⁢(x))=0

つまりI⁢(1)=0となるがこれは(2)に矛盾する。 ∎

References

  • [1] C. A. Rogers, A Less Strange Version of Milnor’s Proof of Brouwer’s Fixed-Point Theorem, Amer. Math. Monthly Vol. 87, No. 7 (1980), pp. 525-527