ブラウワーの不動点定理
ここでは、とする。 この文章の目的は連続写像は常に不動点を持つことを主張するブラウワーの不動点定理を証明することである。
定義 1 (レトラクト).
位相空間の部分集合がのレトラクトであるとは連続写像が存在して任意のについてとなることをいう。このようなをレトラクションという。
命題 2.
次の二つの主張は同値である。
-
(1)
(ブラウワーの不動点定理)任意の連続写像は不動点を持つ。
-
(2)
(No retraction theorem)はのレトラクトではない。
証明.
[の証明]
対偶を示す。がのレトラクトとしてをレトラクションとする。 そしてと定義する。このには不動点が存在しない。実際なので不動点が存在するならばでなければならない。しかしも成り立つので矛盾する。
[の証明終了]
[の証明]
対偶を証明する。不動点を持たない連続写像が存在すると仮定する。 即ちについてということである。 さてと定義するとは連続である。 さらにをと定義すればこれもやはり連続である。 今、に関する二次方程式を考える。つまり方程式
| (1) |
を考える。係数がの関数になってることに注意しよう。いまはこれをの方程式として見ている。また、(1)の解はに依存することに注意せよ。 そして、この二次方程式の二つの解は
である。さていま、が常に成り立つので、である。よって
なので、方程式(1)の解は実数解であり、非負の解と非正の解を持つ。そのうち、非負の解をとしよう。は明示的に
と書ける。この式から分かるように、写像は連続である。 さて、のとき、なのでである。 以上から、をと定義するとこれは連続写像で、のとき となり、レトラクションになっている。つまりはのレトラクトになっている。
[の証明終了] ∎
この命題からブラウワーの不動点定理を示すためにはがのレトラクトではないことを示せばよい。 この主張をさらに換言する。
命題 3.
レトラクションが存在するならば、 滑らかなレトラクションが存在する。ここでがで滑らかというのは、の十分小さい開近傍でが滑らかという意味である。
証明.
と定義する。 に注意しよう。 なのでなのであるが存在して
となる。 また、ワイエルストラスの多項式近似定理から各成分が多項式であるような写像が存在して
となる。また多項式で
を充たすものが存在する。 さて、と定義するとは連続で、で滑らかである。 更にならば
となる。、、であり、 ならばなのでである。よって
つまり
一方、ならば
となる。、でありなのでである。よって
つまりである。 以上のことからならばであるからを
と定義でき、これは上で滑らかである。ならばなので、 つまりとなりは求めるものになる。 ∎
定理 4.
滑らかな関数でとなるものは存在しない。
証明.
そのような関数が存在したとして矛盾を導く。と置く。
という連続関数を考えるとこれはを固定する、とをの間のホモトピーである。このはとを結ぶ直線の内分点である。さてはコンパクトではなめらかなのでは特にリプシッツである。のリプシッツ性を担保する定数をとすると、を仮定したときになので
となる。よってならばは単射である。さてのについてのヤコビ行列を考えると
となる。は連続関数なのでを十分小さくとればのときが成立する。と取っておく。 さていまからのときがについて全単射になっていることを証明しよう。をの内点、つまり
とする。逆関数定理からはの開集合である。 さていまとなるの点を任意に取る。 これの逆像の存在が言えればよい。 となるの点を適当に取る。 するとからとを結ぶ線分はの中に入っており、が連結であることからである。この集合の中からを取る。はコンパクトで、特に閉集合であるから
となるのでとなるが存在する。であるからとなる。ゆえにがを動かさないことからとなる。つまりが分かる。 がの開集合であるからなので、特にである。 そしてとからがわかり、結局がわかるのでは全射である。 そして
と定義すると、と変数変換公式からのとき である。ところではの多項式であり、しかもは上で定数なので、上で定数である。 つまり上で
| (2) |
となる。 しかしながらから
が分かるので
である。つまりはの転置行列の固有値がの固有ベクトルになっている。を固有値にもつ行列の行列式はなので
つまりとなるがこれは(2)に矛盾する。 ∎
References
- [1] C. A. Rogers, A Less Strange Version of Milnor’s Proof of Brouwer’s Fixed-Point Theorem, Amer. Math. Monthly Vol. 87, No. 7 (1980), pp. 525-527