測度空間と積分そして収束定理
この文章では測度空間と測度による積分を定義し、収束定理を証明する。
1 測度空間
最初のセクションでは可測空間上に測度と呼ばれる集合関数を定義する。セクションの後半では測度の性質を次々述べていく。特に測度の加法性から導かれる測度の収束定理ともいうべき命題3は後の積分の収束定理の雛形となり、とても重要である。
定義 1 (測度).
が上の加法族上の測度であるとは
で
かつ,互いに交わらぬの部分集合に対して
を充たす時に言うこのとき三つ組を測度空間とも言う。
注意.
を完全加法性などと呼ぶ。
以下では測度に対する便利な性質を証明していく。 まず最初に包含関係に関する性質から。
命題 2.
を測度空間とするとき以下の事が成り立つ。
| (1) | |||
| (2) | |||
| (3) |
証明.
についてを
と定義するとは互いに交わらずなので
が成り立つがでなので
が成り立つ。
についてでとは互いに素でより
なのでより
そしてより
を得る。
についてでとは互いに素でより
なのでより
そしてよりを左辺に移項できて
を得る。 ∎
次に、単調な族とその測度の極限に関する性質を述べる。これらの性質は収束定理の礎になる大事な性質である。
命題 3.
を測度空間とするとき以下の事が成り立つ。
| (1) | |||
| (2) |
証明.
最後に劣加法性を証明する。
命題 4 (劣加法性).
を測度空間とし、 のとき
が成立する
2 積分そして収束定理
このセクションでは積分を単関数のクラス、非負可測関数関数のクラス、一般の可測関数のクラスへと順次どんどん定義し拡張していく。その中で基本的だが強力な収束定理が証明されていく。
定義 5 (単関数の正規表示).
単関数とは有限個の可測集合と非負実数をつかって
と書ける関数の事だったがこの表示は一意的ではない。このことは簡単に了解されると思う。単関数のこのような表示のうち、の取りうる正の値を(は除く)として
という表示がどんな単関数についても可能だが。このような表示を正規表示という。
定義 6 (単関数の積分).
単関数の積分をの正規表示を用いて
と定義する。またの部分集合上の積分を
と定義する。
注意.
単関数の積分の定義に現れるはであることに注意しよう。特性関数の取り方が特殊なのである。単関数は特性関数の非負の係数による線型結合で表される関数だが、今の時点では積分は特性関数による表示の仕方によらないかどうかは全く不明なのである。
補題 7 (単関数の積分の線形性).
2つの可測関数と
が成立する。
証明.
まずのとき、つまり
は積分の定義からすぐにわかる。よってのときつまり積分の加法性
を示せば定理は示されたことになる。更に帰納法から
の場合に積分の加法性を示せば一般の単関数の場合も積分の加法性が導かれる。ただしは正規表示されているとする。まずの積分 を計算するためにの正規表示を調べよう。簡単にわかるように
である。そして
なのでとして
である。これらからの正規表示
が得られる。よっての積分が計算できる。測度の加法性から
である。ここで
を用いた。ところで定義から
なので結局
がわかる。 ∎
この補題からすぐに次のことがわかる。
系 8.
単関数がと表示されているとする。ただし正規表示じゃなくとも良い。このとき
となる、また
証明.
上の補題からすぐわかる。後半は特性関数についてであることからわかる。 ∎
補題 9 (単関数の積分の単調性).
2つの可測関数がを充たしてるとき
が成立する。
証明.
は正規表示で
と表示されてるとしよう。この時
である。さては正規正規の定義から共に互いに素な族である。そして
である。 ここでのときとから
である。よって
がわかる。 そして
となり定理が示された。 ∎
定義 10 (非負値可測関数の積分).
非負可測関数に対して
と定義する。 また、
と定義する。
単関数の積分の単調性から、単関数に対する積分と、この非負可測関数に対する積分は、単関数に対して一致する。
非負可測関数の定義から明らかに次のことがわかる。
命題 11.
2つの非負可測関数がを充たすならば
証明略.
∎
系 12.
非負可測関数について
命題 13.
非負可測関数とについて次が成り立つ
証明.
明らかであろう。 ∎
定理 14 (単調収束定理).
上の非負可測関数列 が
を充たすとし、と置く、このときは可測であり、
が成立する。
証明.
より明らかにが成り立つので
よって以下逆向きの不等号を示す。
となる単関数を任意に与え、互いに交わらぬ可測集合を用いては
という形とする。 を任意に固定し、そしてと置くと関数列の単調性からがわかりから を得る。そして
が成り立ち、単関数の積分の定義と命題3から
となりこれから
とし、
の上限をとり、
を得る。 ∎
命題 15 (非負可測関数の積分の加法性).
非負可測関数について次が成り立つ
証明.
非負可測関数は下から単調に単関数で近似出来ることと単関数の積分の加法性と単調収束定理からすぐにわかる。 ∎
定理 16 (Fatouの補題).
上の非負関数族について
が成り立つ。
証明.
自然数に対して
と関数列を定義するとこの関数族は可測でかつ単調増加で
となるので単調収束定理より
となる。さての定義よりならばとなるからならば
が成り立つから
となり、として
が成り立つので
∎
注意.
に注意する
定義 17 (一般の可測関数の積分と可積関数).
と分解できるのでこれを用いて
と定義する。
補題 18 (積分の三角不等式).
証明.
∎
定理 19 (優収束定理、ルベーグの収束定理).
上の関数族は(各点収束)であるとし可積分関数が存在して
を満たすとする。この時も可積分であり
が成立する。
証明.
仮定から
がわかり
となるので
である。 Fatouの補題から
で
更に
なので
よって
なので結局
を得る。あとは積分の三角不等式を用いればわかる。 ∎
注意.
実は上で述べた優収束定理の証明は可測関数の引き算をしてるので不定形な演算をしてる可能性を除去しなければならないがが可積関数ならなので適切に修正出来る。証明が長くなるのが面倒だったのでここで注意するに留める。
また実数列と実定数について
となることにも注意せよ。(数列の上極限、下極限がそれぞれその数列の最大の集積点、最小の集積点であることを鑑みればすぐにわかる。)
系 20 (有界収束定理).
測度空間がであり、 上の可測関数列が有界つまり
を充たすとき
が成り立つ。
証明略.
∎
次に述べる2つの定理は優収束定理の系だが、単に「優収束定理より」とだけ述べられて使われることが多い。
定理 21 (優収束定理の系:極限).
を測度空間、を距離空間とし、とする。そして写像に対しての近傍と可積分関数が存在して
を充たすとし、各に対してが存在すると仮定する。このとき、に対して
が成り立つ。
証明.
と置くさて 次の距離空間の極限に関する初等的な事実を思い出そう
事実.
距離空間から距離空間への写像について以下は同値
| (1) | |||
| (2) |
これを念頭に置いてという値を取らないに収束する点列を任意に与え、
と置く。すると十分大きい番号についてならばなのでならば
なので優収束定理から
となるがなので
は任意であったから
に上で述べた事実を用いて結局
を得る。 ∎
注意.
系 22 (優収束定理の系:連続性).
を上の定理と同じ仮定を充たすとし、更に各について
が成り立つとする。このとき
つまり関数
は点で連続である。
証明.
定理21よりすぐに分かる。 ∎
定理 23 (優収束定理の系:微分).
を測度空間、をユークリッド空間の開集合とし、とする。更に写像は各について可積分で各を固定する毎にはで偏微分可能であるとし、更にに対して点の近傍と可積分関数が存在して
を充たすとするこのとき、
証明.
と置くと仮定からである。(つまり無限大という値を取らない。)さて、が十分に近いときにである。そして平均値の定理より
でを十分小さく取ればなので結局が十分小さいとき
でのときなので定理21より
であり、
なので定理がわかる。 ∎
3 零集合
このセクションでは零集合を定義し、その扱いを簡単に紹介する。
定義 24 (零集合).
測度空間に置いてが零集合であるとは
となること。
命題 25 (零集合の可算和).
測度空間の部分集合族 が零集合ばかりからなるとする。このときも零集合である。
証明.
測度の劣加法性から明らかである。
命題 26 (零集合上の積分).
を測度空間の零集合とし、を任意の可測関数とする。このとき
証明.
が単関数の場合に示せば他の場合は積分の定義からすぐに分かる。
命題 27 (可積分関数と零集合).
可積分関数について
つまりは零集合である。
証明.
なのでのときが零集合であることを証明すれば良い。と置く。任意のについて
なので
だが、なのでとしてを得る。 ∎
定義 28 (殆ど至る所等しい).
測度空間上の2つの可測関数が殆ど至る所等しいとは集合が零集合となることである。が殆ど至る所等しいことを
だとか、を省略して
と書く。は”almost everywhere”の意味である。
定理 29.
以上で述べた補題、命題、定理群を「零集合を除いた」形に出来る。
実は可積分関数同士の和は零集合の概念を用いないと定義すらできない。なのでこのセクションを急造したわけである。
命題 30 (積分の線形性).
2つの可積分関数とについて
証明.
証明は明らかであろう。 ∎
References
- [1] W.Rudin,Real and Complex Analysis second edition,McGraw-Hill, 1974
- [2] 伊藤清三,ルベーグ積分入門,数学選書4,裳華房,1963
- [3] 梅垣壽春・大矢雅則・塚田真,測度・積分・確率,共立出版,1987
- [4] 小谷眞一,測度と確率,岩波書店,2005