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コーシーの積分定理の証明

ナンブ キトラ
HTML変換日:2026年7月26日

この文書ではDixon ([3]) によるコーシーの積分定理の簡潔な証明 を紹介する. この文書を通して a∈ℂとR∈(0,∞)について

Δ⁢(a;R):={z∈ℂ||z−a|<R}

と定義する. また曲線自体とその像を区別せずに書く. つまりは, zが曲線γ:[a,b]→ℂの像に属してる事を単にz∈γと書く. その否定も同様の記号で簡潔に書く. また 準備で述べる事実の証明は参考文献[2](Ahlfors)を参照されたし.

また,つまらない例外を除くために以下に登場する閉曲線は恒等的に一点ではないとし, かつ区分的にC1級であるとする.

1 準備

このセクションに書いてあることはほとんど証明しないが, 簡単にわかることは証明する.

定理 1 (開円板に対するコーシーの積分定理).

a∈ℂとし,R∈(0,∞)とする.そして fをΔ⁢(a;R)上正則な関数とする. このとき任意の閉曲線γ⊂Δ⁢(a;R)について

∫γf⁢(z)⁢𝑑z=0

が成り立つ.

定理 2 (リウビルの定理).

ℂ上で正則な有界関数は定数に限る.

定義 3 (回転数).

ℂ内の曲線γとa∈ℂについて, a∈ℂに対するγの回転数Ind⁢(γ;a) を

Ind⁢(γ;a)=12⁢π⁢−1⁢∫γd⁢zz−a

と定義する. これは整数になる(参考文献 [2] を参照のこと).

事実 4.

ℂ内の曲線γについて, ℂ∖γは開集合となるが, その連結成分の上でγの回転数 Ind⁢(γ;z)は一定である. とくに非有界な連結成分での回転数は0となる.

定義 5 (回路).

ℂ内の曲線全体から自由生成される整数係数加群の元を 回路と呼ぶ. 通常は閉曲線の形式和を回路と呼ぶのだが,この文章では曲線の形式和とする. 特に閉曲線からなる回路を 閉回路と呼ぶことにする. つまり回路とはa1,…⁢an−1,anを整数として形式的な和 `⁢`+"を用いて表される

a1⁢γ1+⋯+an−1⁢γn−1+an⁢γn

のことである. ここで曲線 γ1,…⁢γn−1,γnがすべて集合 D⊂ℂ の中に入っているとき, この回路はDの中にあるというとか,D内にあるとかいう. 回路全体の集合には和,差,整数倍 が自然な方法で定義される. ここで和の記号+は本当に形式的なものであり, 具体的に何か意味を持つものではない. 気になる読者は自由生成加群などと言う言葉で調べると良いであろう.さて上のように表される回路について, 少なくとも回路の象の和集合の上で定義される関数f:⋃i=1γi→ℂについての回路上の積分を

∫a1⁢γ1+⋯+an−1⁢γn−1+an⁢γnf⁢(z)⁢𝑑z=a1⁢∫γ1f⁢(z)⁢𝑑z+⋯+an−1⁢∫γn−1f⁢(z)⁢𝑑z+an⁢∫γnf⁢(z)⁢𝑑z

と定義する. 回路上の積分が定義されたことにより,回路の回転数 が以下のように定義される.

Ind⁢(a1⁢γ1+⋯+an−1⁢γn−1+an⁢γn;a)
=a1⁢Ind⁢(γ1,a)+⋯+an−1⁢Ind⁢(γn−1;a)+an⁢Ind⁢(γn;a).
定義 6 (ホモローグ).

ℂの 開集合D内の回路αが D内で0にホモローグであるとは

∀x∈ℂ∖D,Ind⁢(α;x)=0

となることと定義する. また, D内の2つの閉回路α,βに対してαが βにホモローグであるとは α−βが 0にホモローグであることと定義する. これは

∀x∈ℂ∖D,Ind⁢(α;x)=Ind⁢(β;x)

と明らかに同値である.

ホモローグの定義から以下の命題がわかる.

命題 7.

曲線γ1:[a1,b1]→ℂと γ2:[a2,b3]→ℂ がγ1⁢(b1)=γ2⁢(a2) を満たすものとするとこの二つの曲線の座標を適当に変数変換してγ1の終点とγ2の始点を繋いで γ3:[a3,b3]を得ることができる. すると,積分の変数変換の公式とγ3の作り方から γ3上の任意の連続関数f:γ3→ℂについて

∫γ3f⁢(z)⁢𝑑z=∫γ1f⁢(z)⁢𝑑z+∫γ2f⁢(z)⁢𝑑z

が成り立つ. つまりγ3とγ1+γ2 はホモローグである. つまり,回路の定義と回路上の積分の定義は 曲線同士の繋ぎ合わせについて整合的になるということである.

事実 8.

γをℂ内の曲線とし, ϕはγ上の連続関数とすると Φ⁢(z)=∫γϕ⁢(w)w−z⁢𝑑w で定義される関数 Φ:ℂ∖γ→ℂは はℂ∖γ上で正則である.

証明.

証明は[2]を参照してもよいが, ルベーグの収束定理からも この事実8を証明することが出来る. ∎

定理 9.

Dをℂの開集合とし γはD内の回路とすると

E={z∈ℂ|z∉γ,Ind⁢(γ;z)=0}

は開集合となる.

証明.

事実4からすぐわかる. ∎

2 定理と証明

このセクションでは積分定理を証明する。

補題 10.

Dをℂの開集合としてfをその上の正則関数とし, γはD内の閉回路とする. このときp∈γとなる任意の点pに対してp∉αとなるD内の閉回路αが存在し

∫γf⁢(z)⁢𝑑z=∫αf⁢(z)⁢𝑑z

が成り立つ.

証明.

閉回路を構成している基底の個々を考えることによりγを単に閉曲線としても一般性を失わない. 閉曲線γは[0,1]上定義されているとしても一般性を失わず,閉曲線の始点を適当に変えることにより,

γ⁢(0)=γ⁢(1)≠p

と仮定してもよい.

そしてコンパクト空間の上の連続関数は一様連続なので

∀ε>0,∃δ>0,∀s,t∈[0,1],|s−t|<δ⇒|γ⁢(s)−γ⁢(t)|<ε

が成り立つ. 対偶をとって

∀ε>0,∃δ>0,∀s,t∈[0,1],|γ⁢(s)−γ⁢(t)|≥ε⇒|s−t|≥δ

を得る. さてε>0を十分小さくとり

Δ⁢(p;2⁢ε)⊂D

及び

γ⁢(0)=γ⁢(1)∉Δ⁢(p;ε)

が成り立つように出来る. このようにすると

0,1∉γ−1⁢(Δ⁢(p;ε))

となる. そして,γの連続性から γ−1⁢(Δ⁢(p;ε))は [0,1] の開集合であり, 0と1を含んでいないので, その連結成分は(ai,bi)と言う形をしている.

さてこの連結成分の内, その集合のγによる像にpを含むもの, 同じことだが, 連結成分のうちγ−1⁢(p)と共通部分を持つものを考える. このときそのような連結成分のひとつを(a,b)と書き, c∈(a,b)についてγ⁢(c)=pとなっているとする.

ところでγの連続性から点 γ⁢(a)及び点γ⁢(b)は Δ⁢(p;ε)の境界 {z∈ℂ||z−p|=ε}に属する. よって

|γ⁢(c)−γ⁢(a)|=|p−γ⁢(ai)|=|γ⁢(c)−γ⁢(b)|=|p−γ⁢(bi)|=ε

となる. よってうえで述べた一様連続性の対偶から c−a≥δと b−c≥δ を得る.そしてこれら二つを足し合わせて

b−a≥2⁢δ

を得る. 連結成分同士は互いに交わらず, 当たり前だが[0,1]は有限の長さしか無いので, γ−1⁢(Δ⁢(p;ε))の連結成分の内 γによる像にpを含むものは有限個しか無いことがわかる.

この事から γ−1⁢(Δ⁢(p;ε))の連結成分の内 γによる像にpを含むものを番号付けして

(a1,b1),(a2,b2),…,(ai,bi),…,(aN,bN)

と置くことにしよう. (ここでN∈ℕである.) 各iについてγ⁢(ai)及び, γ⁢(bi)は {z∈ℂ||z−p|=ε}に属することを再び注意する.

このとき, 二点 γ⁢(ai),γ⁢(bi) を結ぶ曲線でΔ⁢(p;2⁢ε)内にあり, かつpを通らないものが存在する.111例えば{z∈ℂ||z−p|=ε}の円弧などがあげられる。とにかくpを通らず、C1級でΔ⁢(p;2⁢ε)内にあれば何でもよい。それをβiとしよう.

さて曲線γの,γ⁢([ai,bi])の部分を βiにすげ替えた曲線をαとする. すると,αは区分的にC1級でpを通らない. またαはD内の曲線である. 222今,Δ⁢(p;2⁢ε)⊂Dとしていることに注意せよ.

そして γ−αはΔ⁢(p;2⁢ε)内の閉曲線からなる 閉回路にホモローグになる (命題 7参照のこと).つまり γ−α上でのfの線積分はΔ⁢(p;2⁢ε)内の閉回路上の積分になるので333図を描いてみよ.また,Δ⁢(p;ε)とΔ⁢(p;2⁢ε)の違いにも注意せよ., 定理1 (円板に対するコーシー積分定理)を fと Δ⁢(p;2⁢ε)に対して用いると

∫γf⁢𝑑z−∫αf⁢𝑑z=∫γ−αf⁢𝑑z=0

となるので補題は証明された。( γを修正してαを得ているが,もしも修正する区間が有限個でなければ区分的にC1級であるかどうかは分からないし,積分も定義してないので,それらが有限個であるという議論は必要である.) ∎

定理 11.

複素平面ℂの開集合DとそのDの中で 0にホモローグなD内の閉回路γが与えられたとき,D上で定義されたの任意の正則関数f:D→ℂに対し

∫γf⁢(z)⁢𝑑z=0

が成立する.これは俗に言うコーシーの積分定理である. そしてさらにγ上にない点a∈Dに対して

12⁢π⁢−1⁢∫γf⁢(z)z−a⁢𝑑w=f⁢(a)⋅Ind⁢(γ;a)

が成り立つ. これは俗に言う コーシーの積分公式である.

証明.

まず最初にコーシーの積分公式を証明し, それを用いてコーシーの積分定理を示す. いきなりだがD×D上で

g⁢(z,w):={f⁢(z)−f⁢(w)z−wz≠wf′⁢(z)z=w

と関数g:D×D→ℂ を定義しよう. この関数gはzを固定する毎にwに対して正則である. よって各z毎に積分

∫γg⁢(z,w)⁢𝑑w

が出来て,これは有限の値になる.444どうやらD×Dで連続であるようだが,この文章を書き終えた時点での筆者には証明出来なかった.しかしそのことを使わずとも証明は完遂できるの心配しなくてもよい.ちなみにこの連続性は有限増分の定理を利用すれば示すことができる.

集合E={z∈ℂ|z∉γ,Ind⁢(γ;z)=0}について事実4から

ℂ∖D⊂E

である. さてG:ℂ→ℂを

(1) G⁢(z):={∫γg⁢(z,w)⁢𝑑wz∈D∫γf⁢(w)w−z⁢𝑑wz∈E

と定義する. この定義がwell-definedかどうか調べてみよう. まずz∈D∩EとするとEの定義から ∫γd⁢wz−w=−2⁢π⁢−1⋅Ind⁢(γ;z)=0なので

∫γg⁢(z,w)⁢𝑑w=∫γf⁢(z)−f⁢(w)z−w=f⁢(z)⁢∫γ1z−w⁢𝑑w−∫γf⁢(w)z−w⁢𝑑w=∫γf⁢(w)w−z⁢𝑑w

となり, ∫γg⁢(z,w)⁢𝑑w と ∫γf⁢(w)w−z⁢𝑑w は D∩E で一致するから Gはℂ=D∪Eできちんと定義されている.つまりwell-definedである.

次にG:ℂ→ℂの正則性を示そう.

まずz∉γのとき

G⁢(z)=∫γg⁢(z,w)⁢𝑑w=∫γf⁢(z)−f⁢(w)z−w⁢𝑑w=f⁢(z)⁢∫γ1z−w⁢𝑑w−∫γf⁢(w)z−w⁢𝑑w

が成り立つか もしくは

G⁢(z)=∫γf⁢(w)w−z⁢𝑑w

が成り立つが, 事実8などからGが正則となる事がわかる.

次にz∈γのとき, G⁢(z)=∫γg⁢(z,w)⁢𝑑wであるが, 先の補題10からz∉αかつ

∫γg⁢(z,w)⁢𝑑w=∫αg⁢(z,w)⁢𝑑w

となるD内の回路αが存在する. よって先のz∉γの場合と同様にG⁢(z)の正則性がわかる.

以上からGの正則性が分かった.

次に

limz→∞G⁢(z)=0

が成り立つことを示そう. さて|z|の値を十分大きく取ればz∈Eとなることに注意しよう. 今,γ上の|w|, |f⁢(w)|の最大値をそれぞれ K, Mとする(γがコンパクトであることに注意せよ). すると任意のz∈ℂについて

|G⁢(z)|=|∫γf⁢(w)w−z⁢𝑑w|≤M|z|⁢∫γ|1wz−1|⁢|d⁢w|

が成り立つ. ここでA>0を

0<1−KA

が成り立つように十分大きくとると, A≤|z|ならば 三角不等式から

0<1−KA≤1−K|z|≤1−|wz|=|1−|wz||≤|wz−1|

が成り立つので,A≤|z|となるz∈ℂについて

|G⁢(z)|≤M|z|⁢∫γ|1wz−1|⁢|d⁢w|≤M|z|⁢∫γ11−KA⁢|d⁢w|

が成り立つ. ここで最右辺に現れる ∫γ11−KA⁢|d⁢w| はzに依存しない定数なので, |z|→∞とすれば右辺は0に収束する. つまり

limz→∞G⁢(z)=0

が成り立つ. このことからGはℂ上正則かつ有界であることがわかり, リウビルの定理によりGは定数関数となることがわかる. さらにlimz→∞G⁢(z)=0なので Gは恒等的に0に等しいことがわかる. するとa∉γとなるa∈Dに対して

G⁢(a)=∫γg⁢(a,w)⁢𝑑w=0

なのでg⁢(a,w)が何であったかを思い出せば,この式から

0 =∫γf⁢(a)−f⁢(w)a−w⁢𝑑w
=∫γf⁢(a)a−w⁢𝑑w−∫γf⁢(w)a−w⁢𝑑w
=f⁢(a)⁢∫γ1a−w⁢𝑑w−∫γf⁢(w)a−w⁢𝑑w
=−2⁢π⁢−1⋅f⁢(a)⋅Ind⁢(γ;a)−∫γf⁢(w)a−w⁢𝑑w

が成り立ち,移項すれば コーシーの積分公式

12⁢π⁢−1⁢∫γf⁢(w)w−a⁢𝑑w=f⁢(a)⋅Ind⁢(γ;a)

を得る.

次にコーシーの積分定理を示そう. 点a∈Dをγ上に無いものとして固定してf⁢(w)の代わりに F⁢(w)=f⁢(w)⁢(w−a)に対して 上で得られたコーシーの積分公式を適用すれば, F⁢(a)=0と

F⁢(w)w−a=f⁢(w)⁢(w−a)w−a=f⁢(w)

から

∫γf⁢(w)⁢𝑑w=0

を得る(今はwを変数としてることに注意せよ). これは示したいコーシーの積分定理である. ∎

References

  • [1] 高橋礼司, 複素解析, 基礎数学8, 第9版, 東京大学出版会, 2011.
  • [2] L. V. Ahrfols, Complex analysis, 3rd ed., ,McGraw-Hill, 1979.
  • [3] J. D. Dixon, A brief proof of Cauchy’s integral theorem, Proc. Amer. Math. Soc. Vol. 29 (1971), 625-626.
  • [4] P. A. Loeb, A Note on Dixon’s Proof of Cauchy’s Integral Theorem, Amer. Math. Monthly Vol.98, No.3 (Mar.,1991), 242-244.