コーシーの積分定理の証明
この文書ではDixon ([3]) によるコーシーの積分定理の簡潔な証明 を紹介する. この文書を通して とについて
と定義する. また曲線自体とその像を区別せずに書く. つまりは, が曲線の像に属してる事を単にと書く. その否定も同様の記号で簡潔に書く. また 準備で述べる事実の証明は参考文献[2](Ahlfors)を参照されたし.
また,つまらない例外を除くために以下に登場する閉曲線は恒等的に一点ではないとし, かつ区分的に級であるとする.
1 準備
このセクションに書いてあることはほとんど証明しないが, 簡単にわかることは証明する.
定理 1 (開円板に対するコーシーの積分定理).
とし,とする.そして を上正則な関数とする. このとき任意の閉曲線について
が成り立つ.
定理 2 (リウビルの定理).
上で正則な有界関数は定数に限る.
定義 3 (回転数).
事実 4.
内の曲線について, は開集合となるが, その連結成分の上での回転数 は一定である. とくに非有界な連結成分での回転数はとなる.
定義 5 (回路).
内の曲線全体から自由生成される整数係数加群の元を 回路と呼ぶ. 通常は閉曲線の形式和を回路と呼ぶのだが,この文章では曲線の形式和とする. 特に閉曲線からなる回路を 閉回路と呼ぶことにする. つまり回路とはを整数として形式的な和 を用いて表される
のことである. ここで曲線 がすべて集合 の中に入っているとき, この回路はの中にあるというとか,内にあるとかいう. 回路全体の集合には和,差,整数倍 が自然な方法で定義される. ここで和の記号は本当に形式的なものであり, 具体的に何か意味を持つものではない. 気になる読者は自由生成加群などと言う言葉で調べると良いであろう.さて上のように表される回路について, 少なくとも回路の象の和集合の上で定義される関数についての回路上の積分を
と定義する. 回路上の積分が定義されたことにより,回路の回転数 が以下のように定義される.
定義 6 (ホモローグ).
の 開集合内の回路が 内でにホモローグであるとは
となることと定義する. また, 内の2つの閉回路に対してが にホモローグであるとは が にホモローグであることと定義する. これは
と明らかに同値である.
ホモローグの定義から以下の命題がわかる.
命題 7.
曲線と が を満たすものとするとこの二つの曲線の座標を適当に変数変換しての終点との始点を繋いで を得ることができる. すると,積分の変数変換の公式との作り方から 上の任意の連続関数について
が成り立つ. つまりと はホモローグである. つまり,回路の定義と回路上の積分の定義は 曲線同士の繋ぎ合わせについて整合的になるということである.
事実 8.
を内の曲線とし, は上の連続関数とすると で定義される関数 は は上で正則である.
定理 9.
をの開集合とし は内の回路とすると
は開集合となる.
証明.
事実4からすぐわかる. ∎
2 定理と証明
このセクションでは積分定理を証明する。
補題 10.
をの開集合としてをその上の正則関数とし, は内の閉回路とする. このときとなる任意の点に対してとなる内の閉回路が存在し
が成り立つ.
証明.
閉回路を構成している基底の個々を考えることによりを単に閉曲線としても一般性を失わない. 閉曲線は上定義されているとしても一般性を失わず,閉曲線の始点を適当に変えることにより,
と仮定してもよい.
そしてコンパクト空間の上の連続関数は一様連続なので
が成り立つ. 対偶をとって
を得る. さてを十分小さくとり
及び
が成り立つように出来る. このようにすると
となる. そして,の連続性から は の開集合であり, とを含んでいないので, その連結成分はと言う形をしている.
さてこの連結成分の内, その集合のによる像にを含むもの, 同じことだが, 連結成分のうちと共通部分を持つものを考える. このときそのような連結成分のひとつをと書き, についてとなっているとする.
ところでの連続性から点 及び点は の境界 に属する. よって
となる. よってうえで述べた一様連続性の対偶から と を得る.そしてこれら二つを足し合わせて
を得る. 連結成分同士は互いに交わらず, 当たり前だがは有限の長さしか無いので, の連結成分の内 による像にを含むものは有限個しか無いことがわかる.
この事から の連結成分の内 による像にを含むものを番号付けして
と置くことにしよう. (ここでである.) 各について及び, は に属することを再び注意する.
このとき, 二点 を結ぶ曲線で内にあり, かつを通らないものが存在する.111例えばの円弧などがあげられる。とにかくを通らず、級で内にあれば何でもよい。それをとしよう.
さて曲線の,の部分を にすげ替えた曲線をとする. すると,は区分的に級でを通らない. または内の曲線である. 222今,としていることに注意せよ.
定理 11.
複素平面の開集合とそのの中で にホモローグな内の閉回路が与えられたとき,上で定義されたの任意の正則関数に対し
が成立する.これは俗に言うコーシーの積分定理である. そしてさらに上にない点に対して
が成り立つ. これは俗に言う コーシーの積分公式である.
証明.
まず最初にコーシーの積分公式を証明し, それを用いてコーシーの積分定理を示す. いきなりだが上で
と関数 を定義しよう. この関数はを固定する毎にに対して正則である. よって各毎に積分
が出来て,これは有限の値になる.444どうやらで連続であるようだが,この文章を書き終えた時点での筆者には証明出来なかった.しかしそのことを使わずとも証明は完遂できるの心配しなくてもよい.ちなみにこの連続性は有限増分の定理を利用すれば示すことができる.
集合について事実4から
である. さてを
| (1) |
と定義する. この定義がwell-definedかどうか調べてみよう. まずとするとの定義から なので
となり, と は で一致するから はできちんと定義されている.つまりwell-definedである.
次にの正則性を示そう.
以上からの正則性が分かった.
次に
が成り立つことを示そう. さての値を十分大きく取ればとなることに注意しよう. 今,上の, の最大値をそれぞれ , とする(がコンパクトであることに注意せよ). すると任意のについて
が成り立つ. ここでを
が成り立つように十分大きくとると, ならば 三角不等式から
が成り立つので,となるについて
が成り立つ. ここで最右辺に現れる はに依存しない定数なので, とすれば右辺はに収束する. つまり
が成り立つ. このことからは上正則かつ有界であることがわかり, リウビルの定理によりは定数関数となることがわかる. さらになので は恒等的にに等しいことがわかる. するととなるに対して
なのでが何であったかを思い出せば,この式から
が成り立ち,移項すれば コーシーの積分公式
を得る.
次にコーシーの積分定理を示そう. 点を上に無いものとして固定しての代わりに に対して 上で得られたコーシーの積分公式を適用すれば, と
から
を得る(今はを変数としてることに注意せよ). これは示したいコーシーの積分定理である. ∎
References
- [1] 高橋礼司, 複素解析, 基礎数学8, 第9版, 東京大学出版会, 2011.
- [2] L. V. Ahrfols, Complex analysis, 3rd ed., ,McGraw-Hill, 1979.
- [3] J. D. Dixon, A brief proof of Cauchy’s integral theorem, Proc. Amer. Math. Soc. Vol. 29 (1971), 625-626.
- [4] P. A. Loeb, A Note on Dixon’s Proof of Cauchy’s Integral Theorem, Amer. Math. Monthly Vol.98, No.3 (Mar.,1991), 242-244.